<東北の本棚>この青い空で君をつつもう
[レビュアー] 河北新報
著者は仙台市泉区在住のSF作家。豊富な科学的知識とミステリーの手法を生かし、ファンタジックな青春ラブストーリーを生み出した。奇跡のような物語を説得力ある小説として描き出した。希望が持てる読後感で心が温まる。
和紙店を営む家に生まれた静岡県の高校生藤枝早季子の元に12月23日、宛名だけが印刷されたはがきが届く。クリスマスの25日には、知らぬ間にそのはがきで猿が折られていた。そして、早季子ははがきの文字を見て驚く。10カ月前に難病で亡くなった折り紙好きの同級生望月和志の字だったからだ。
このことをきっかけに早季子の周りでは、何かに導かれるように不思議な出来事が頻発する。折り紙が引き起こす奇跡によって、早季子は和志との間に芽生えていた純粋な恋心を見つめ直すようになる。
早季子は生前の和志との交流や何げない会話を振り返りながら、死期の近いことを知っていた和志が特殊な折り紙に託した「未来」に気付いていく。そして、自らも悲しみや後悔を乗り越えて成長していく。
折り紙と最新の科学技術を絡めた著者の着想がさえ、予想が付かないストーリーテリングで読者を引き付ける。特に人の思いがつながっていく最終盤はすがすがしくて感動的だ。
「昨日消えてしまった彼の手に、明日の私の手が触れる」。本著のキャッチコピーだが、科学の進歩によって亡くなった人とつながれる新しい可能性も示している。筆者の筆力によって、この物語が近未来には実現するかのようにも思える。
著者は1968年静岡市生まれ。東北大大学院薬学研究科博士課程修了。95年に「パラサイト・イヴ」で第2回日本ホラー小説大賞を受賞して作家デビュー。98年には「BRAIN VALLEY」で日本SF大賞を受賞している。
双葉社03(5261)4818=1620円。