神の見えざる手が見えてくる/佐々木健一『神は背番号に宿る』

レビュー

3
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神は背番号に宿る

『神は背番号に宿る』

著者
佐々木 健一 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103506317
発売日
2017/01/18
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

神の見えざる手が見えてくる/佐々木健一『神は背番号に宿る』

[レビュアー] 向井万起男(医師)

 本書のタイトル、『神は背番号に宿る』。チョット大袈裟なタイトルと思う方がいるかもしれない。でも、私は素晴らしいタイトルだと思う。読み終われば、どなたも私と同じ思いになるのではないか。内容と良くマッチしていることがわかるはずだから。

 では、どういう内容の本でタイトルがどうして内容と良くマッチしているのか? その前に少し言っておきたいことがある。

 かなりトシいった私だが、これからも“野球こそ我が人生”を貫き通そうと思っている。そんな私からすると、サッカーなど他のスポーツの人気が高まった今でもプロ野球ファンが大勢いるのは心強いし、とても嬉しい。“カープ女子”という方々まで登場してきたなんてサイコー。どんな分野であれ女性が活発でいてくれれば日本の未来は明るい。

 ところで。プロ野球の何に魅力を感じるかは人によって違うかもしれない。熾烈なペナントレースに魅力を感じる人や、選手達のプロならではのプレーに魅せられている人など色々かもしれない。イケメンの選手に惚れ込んで応援している女性もいるかもしれない。世の中は何事も人それぞれだし、そうでないとつまらないので、プロ野球の何に魅力を感じるかも人それぞれであってほしい。

 私はどうか? ペナントレースにも選手のプレーにも魅力を感じているし、イケメンの選手を“ヤケにカッコイイなぁ”と思いながら観てもいる。でも、一番魅力を感じているのは数字と人間ドラマのような気がする。

“野球は数字のスポーツ”とも言われるくらいで、実に多岐にわたる数字が絡んでいる。勝率、安打数、盗塁数、打率、出塁率、防御率、奪三振数……と無数と言ってもイイくらいの数字。こうした数字が絡んだ闘いを球団も選手も繰り広げているので、当然ながら数字に絡む人間ドラマが生まれてくる。そのドラマは、ときとして凄まじい。

 さて。野球に絡む数字として背番号も忘れてはならない。大事な数字だ。選手の背中に記された単なる記号というわけではなく、人間ドラマを生むから。凄まじい人間ドラマさえ生む。……と偉そうに私が言えるのは本書を読んだから。正直に白状してしまうが、ここまで意外で凄まじい人間ドラマが背番号と絡んで生まれていることを本書を読むまで私は知らなかった。“野球こそ我が人生”と言っている者としては恥ずかしい限りだ。

 いよいよ本書の内容についてになるわけだが、あまり触れたくないというのが本音。どうしてかというと、意外なうえに凄まじいまでの人間ドラマが書かれているから。そういう内容にあまり触れたらミステリーのネタをばらすみたいになってしまう。でも全然触れないのは変なので、私がビックリすると同時に感動した逸話を少し。

 江夏豊は多球団を渡り歩き、背番号も変わった。でも江夏の背番号といえば野球ファンなら誰もが阪神タイガース時代の28を思い浮かべるだろう。年間奪三振数401という世界記録を樹立した背番号28。小川洋子さんの超弩級傑作小説『博士の愛した数式』で有名になった江夏の“完全数”28。既に伝説になっているとさえ言ってイイ背番号だ。ところが、この背番号をつけることになった経緯に驚かされる。球団が提示した1と13と28の中から28を選んだというのだ。投手なら1を選ぶのが普通なのに、江夏はそうしなかった。永遠のライバルが既に他球団で1をつけていたからというのが理由。そこまでライバルにこだわる江夏という男の生き様には痺れる。さらに、そのライバルの男の背番号1にも永久欠番にまつわる痺れる逸話があるときているのだからたまらない。

 著者の佐々木健一さんは、よくぞここまでというくらい徹底的に取材している。そうした取材に基づいて書かれた本書を読み終えると、それまで偶然のように思えていたものが必然だったというように思えてもくる。神の見えざる手が見えてくるように。

新潮社 波
2017年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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