ヤクザと憲法 東海テレビ取材班 編

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ヤクザと憲法 東海テレビ取材班 編

[レビュアー] 森達也(ドキュメンタリー作家)

◆排除の論理で、人権は

 二○一五年三月、中京圏を放送対象地域とする東海テレビが、「ヤクザと憲法」というタイトルのドキュメンタリー番組を放送した。被写体は大阪市西成区に本部を置く指定暴力団。二十七人の組員が、ドキュメンタリーの被写体だ。

 ヤクザが主役の映画は多い。テレビドラマも珍しくない。でもすべてフィクションだ。誰かが演じている。銃やナイフは小道具だ。だから安心して観(み)られる。だってホンモノは反社会的存在なのだ。

 ところが東海テレビの制作スタッフは、ホンモノのヤクザ一人ひとりを被写体にした。モザイクなどない。すべて素顔。そこに映し出されるのは、我々と同じように笑ったり泣いたり怒ったりする男たちだ。いや違いもある。彼らは銀行に口座を作れない。子供を保育園に通わせることもできない。車のローンも組めない。だから一人が言う。「これな、わしら人権ないんとちゃう?」

 暴対法が施行されたのは一九九二年。社会における排除の論理は年ごとに強くなり、これに呼応するように、人権の砦(とりで)であるはずの憲法も揺らぎ始めている。

 昨年「ヤクザと憲法」は同タイトルのドキュメンタリー映画として公開され、大ヒットを記録した。それが書籍になった。読みながら唖然(あぜん)とする。映像版よりもさらに踏み込んでいる。スタッフの身を案じたくなる。心配だ。でも必読だ。

(岩波書店 ・ 1944円)

<東海テレビ取材班> 取材班は制作者が阿武野勝彦、監督が〓方宏史。弁護士の安田好弘が寄稿。

◆もう1冊 

 廣末登著『ヤクザになる理由』(新潮新書)。元組員たちの証言をもとに、家庭や学校、仲間などが与える影響を探る。

※〓は、土にてん

中日新聞 東京新聞
2017年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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