『我が名は、カモン』
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【聞きたい。】犬童一心さん『我が名は、カモン』
[文] 産経新聞社
■演技者のような感覚で描く
初の小説とは、意外な気がしないでもない。
「誘われてはいたが、字を書くのは大変だし、実は映画のシナリオもあんまり自分では書いていないんです。でも映画を撮る予定が飛んでしまって時間が空いた。その映画自体、原作者ともめてやめたので、それも小説を書いてみようかなというきっかけにはなりました」と笑う。
主人公の加門慶多は老舗劇団に所属するベテランマネジャー。大御所俳優やわがまま女優に翻弄されながらも、きめの細かい気配りで難局を乗り切ってきた。そんな加門に、40年前に姿を消した伝説の劇作家を捜し出す指令が下る。
「マネジャーって一人一人みんな違っていて、ものすごく面白い人が多い。その記憶に残っている人たちがモデルになっています。映画で描かれる題材は、家族、恋人、友情がほとんどですが、僕はそれが微妙に嫌で、そうじゃない人間関係が魅力的だという思いが強い。作品を作っている最中はとても濃い関係だが、終わった途端にサッと消える。そういう集まりが作り上げたものが素晴らしいものだという話は、やっぱりいいなと思います」
小説には役者や演出家など魅力あふれる個性が次々と登場し、物語を盛り上げる。彼らには、ミヤコ蝶々や山崎努といった実際に出会ってきた「怪物」の姿が反映されている。
「本当は手の届かないような人たちとたまたま仕事で一緒になって、ただ一緒に話をしている時間があって、そのときは皆さん普通の人間になっている。でもやっぱり普通の人ではないという思いは消えないんです。それが僕にとってものすごく貴重な時間で、そういう時間を再現したいという気持ちもありました」
映画と比べると、小説は演技も自分でしているという感覚があるという。「それに映画だとみんなに止められそうなことも、小説だと平気なんじゃないかな」(河出書房新社・1600円+税)(藤井克郎)
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【プロフィル】犬童一心
いぬどう・いっしん 映画監督。昭和35年、東京生まれ。監督作に「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」、脚本に「大阪物語」などがある。