法人税の税率は本当に引き下げるべきか? SNS全盛の時代だからこそ求められる、「熟考」する姿勢

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法人税の税率は本当に引き下げるべきか? SNS全盛の時代だからこそ求められる、「熟考」する姿勢

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

社会人の方も学生の方も日々結果を求められるでしょう。思うような結果を得られずにもがき苦しむあなたの毎日は、若い方ほど将来に対する不安を呼び起こす一方かもしれません。
結果というのは、受験や就活、仕事の成果などの目に見えるものに限られません。もっとささいなことでプライベートでも日常でも、思うようにいかない無力さをSNSなどに託して吐き出している人もいるかもしれません。(「まえがき」より)

熟考する力~流されない自分をつくる本物の思考術』(木山泰嗣著、大和書房)の著者は、こう記しています。SNSが当然のものとしてある環境で学生時代を送り、社会に出ていく(あるいは出ていった)人にこそ、「熟考する力」が必要なのだとも。

わかりやすい主張、耳当たりのいい主張、不安や恐怖をあおる主張などがありますが、自分で考え抜いた意見を、あなたは持っているといえるでしょうか。(中略)目まぐるしい情報の吸収をするばかりで、ささいなことへの反応ばかりしてしまいやすい毎日のなかでは、じっくりと考えて、冷静に事実を調べて、さまざまな意見を客観的にとらえたうえで、最後に自分の結論を導く。こうした「思考プロセス」をぜひとも得たいものです。
そして、こうした力を手にすることが、これからの時代をたくましく生きるために必要だといえるでしょう。(「まえがき」より)

そこで本書では、「解釈」「事実認定」「評価」「結論」「主張の読解」などさまざまな視点に基づき、熟考することの大切さを説いているわけです。きょうは3章「評価の視点 —-上っ面だけを見て、的外れなことを語っていないか?」から、いくつかの考え方を引き出してみたいと思います。

正論が人を傷つけることもある

たとえば芸能人が不倫をしたというようなニュースを目にしたとき、自分の身近な人間でもないのに、「人間としてあり得ない」「芸能人やめろ」などひどいことをツイートする人は、思いのほか多いもの。もちろん、どのようなツイートをするかは個々の自由。しかし、衝動的な感情でツイートをしてしまうと、思いもよらないリスクがあることも忘れてはいけないと著者は釘を刺しています。

自分とはなんの利害関係もない芸能人だということを前提に悪口をいうわけですが、もしかしたら身近にいる友人が、そのカップルと同じような不倫をしていて、でも人にいえずに苦しんでいるかもしれない。つまり、同じような状況にいる身近な人を傷つけてしまう危険もあるということ。もっといえば、自分自身がそのような状況になってしまうことだって、ないとはいえないわけです。

価値判断の問題については、「なにがよくて、なにが悪い」ということは簡単に決めつけられないもの。しかし、こうした問題についての安易なツイートやコメントが、周囲の人を傷つけたり、将来の自分の首を締めたりすることもあるということです。

暴力は直接体を傷つける行為ですが、「言葉による暴力」もあります。言葉は感情に刺さるものであればあるほど、心をえぐるナイフになります。言葉は慎重に使わなければなりません。(120ページより)

芸能人の不倫のニュースであれば、それが事実かどうか当初はわからなかったとしても、それを当事者同士が認めれば、事実に認定が終わることになります。次に認定された事実をどのように評価するかは、それぞれの考えや立場によるもの。安易な評価を言葉にして、ツイートするのは早計だということ。つまり、こういった問題ほど、熟考する力が役立つわけです。(118ページより)

形式だけの議論に飛びつくのではなく実質も見る

世の中にある問題について自分の考えを示すためには、問題点やテーマがどういうものであるのかを、しっかり調べて全体像を理解することが不可欠。その議論の前提として、専門知識も必要になるはずです。ところがそうした社会問題に関しては、難しい問題であればあるほど、伝えるマスコミなどが「問題を単純化する」傾向があるといいます。たしかに単純化しないと人々の関心を引くことができず、伝わらないのかもしれません。

この問題を論じるにあたり、著者はここで消費税率の問題を取り上げています。ご存知のとおり、消費税の税率を上げるべきか、それとも維持すべきかという社会的な議論。いまは増税するという方向で来ていますが、軽減税率といって食料品などについては一般の税率よりも低い税率を適用しようという議論がありました(10%引き上げの時期の延期に伴い、議論は沈静化していますが)。

このような問題についても、マスコミなどの「伝える側」は関心を持ってもらうために、わかりやすい部分を切り取ってきて提示するもの。しかし、そうした表面的な情報だけを鵜呑みにして「なるほど、こういう問題か」と納得し、SNSに「賛成だ」「反対だ」などと書き込むのはよくないと著者は主張します。

なぜなら、実際にはいろいろな問題が複雑に絡んでおり、決して単純な問題ではないから。なのに、マスコミのざっくりしたわかりやすい議論だけで安易に結論を出し、わかったかのように声高にツイッターやフェイスブックなどに書いたとしたらどうなるでしょうか? よくわかっている人から底の浅さを見透かされ、その結果として、リアルにつながっているフォロワーからの評価が下がってしまうということも十分に考えられるわけです。(140ページより)

冷静な議論とは?

法人税の実効税率(法人が所得について負担する税率)を下げるべきだという議論があります。国際的に見れば、法人税の対象の中心になる会社が負担している実効税率は20%台が多いものの、日本では40%近くあったからです(2011年)。税率が高いと、企業が税率の低い海外に出ていってしまう可能性があります。そこで、これを国際水準並みに下げるべきだという議論がなされてきたわけです。

法人税の実効税率が下がれば、企業が納める税金がそれだけ減り、そのぶんを設備投資にあてたり、従業員を採用することが可能になります。そのため、払わなくてよくなったお金は、どんどん資金として投入していけるので、日本全体で見るといいことなのではないかという「トリクルダウン理論」と呼ばれる考え方があります。

近年は、こうした考え方のもとで、法人税率を年々引き下げる税制改革が行われています。その結果、約40%あった法人の実効税率は、現在では29%までに下がってきているといいます。

こうして数字を見ると、「日本の法人が負担している税金は高い」と感じるかもしれません。しかし実質を見ていくと、現実は違うというのです。日本の法人が負担している税金は、租税特別措置法という経済政策を定めた法律(期限のついた時限立法)があって、税金を免除したり、減税の措置があり、多くの企業はこれを活用しているわけです。つまり、先の税率の数字の議論だけでは、本当は比較にならないわけです。

「形式(数字)で見ると税率は高いかもしれないが、さまざまな税の恩恵を受けている企業が日本には多いのではないか」と強調する考え方もあるはずで、これは実質論。形式論と実質論は、どちらが正しいということではなく、双方を見ることが大事だと著者は強調しています。裁判所が判決を書くときに見る2つの観点で、裁判以外の物事の判断にも使える思考法があり、そのひとつが「形式論と実質論」という視点なのだそうです。

法人税を減税することは企業にとってよいことかもしれませんが、減税した部分をどう補うかということになれば、それが別の増税につながることも考えられます。事実、法人税が減税されたとしても、赤字法人でも負担しなければならない税金が増えていくことになっているのだとか。だとすれば、それが企業にとってプラスになるかどうかは難しい問題でもあるわけです。

このように、法人税減税の問題ひとつとっても決して簡単ではないということ。形式的に見えているところだけで「賛成」「反対」と判断するのではなく、実質的なメリットやデメリットもよく観察することが大切だということです。本質を見抜いていくことができるようになると、なおよいと著者。

わかりやすさも初歩的には大切です。しかしそこですぐに反応するのではなく、一歩止まる。そして決して簡単には結論がでない問題の内奥に、さらに進んでいく。こうしたことが、これからの時代には必要になると思います。情報が得やすい時代には、すぐに反応せず、じっくり考える人が望まれるのではないでしょうか。(145ページより)

著者のこの意見には、大きく共感できるものがあります。(142ページより)

著者は、弁護士として税務訴訟・税務に関する法律問題を取り扱ってきた実績を持ち、現在は青山学院大学法学部教授として学生と接している人物。そのせいか、若い世代に寄り添った視点は暖かく、そして説得力に満ちています。生きていくうえで大切なものを再確認するために、読んでみてはいかがでしょうか?

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年2月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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