『ブルマーの謎』 山本雄二著

レビュー

9
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ブルマーの謎

『ブルマーの謎』

著者
山本 雄二 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784787234100
発売日
2016/12/08
価格
2,160円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ブルマーの謎』 山本雄二著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

戦後女子を縛った「枷」

 表紙の写真のとおり、本書で取り上げているブルマーは身体にぴったりくっついた「密着型ブルマー」、お尻の形がもろに出て、両足は腿(もも)から下が剥(む)き出しになる女子の体操着のことである。では、その謎とは何か。

 〈1〉密着型ブルマーは、一九六〇年代半ばごろから、中学校を中心に女子の体操着として急速に普及・定着した。当事者の女子たちからは「身体の線が見えて恥ずかしい」という声もあったのに、なぜトレパンでもジャージでもなく密着型ブルマーだったのか。

 〈2〉その普及のきっかけについては、「東京オリンピック憧れ説」「運動機能向上説」等々があり、どれももっともらしく聞こえるのだが、確たる裏付けは見つからない。これらはただの風説に過ぎず、真の理由は他にあるのか。

 〈3〉全国に普及していた密着型ブルマーは、九〇年代半ば以降、一転して急速に女子体育教育現場から姿を消してゆく。なぜ消えたのか?

 地道な検証でこれらの謎に迫ってゆく本書には、調査報道のようなスリルと緊張感がある。本書は明らかにしてゆく。密着型ブルマーの普及(強制)の背景には「女子体操着市場」という大きな利権の争奪戦があり、戦前型精神論を尊ぶ「大日本主義」と、GHQの民主化政策を受けたスポーツ自由主義との対立があった。

 そして、私は胸騒ぎを覚えずにいられない。およそ三十年もの間、多感な女の子たちが密着型ブルマーの着用を強いられ、日常的に互いの体型を見比べる状況に置かれ、「ぴったりブルマーをはいてもスタイルのいい子は格好よく見える」「スタイルがよくないとみっともない」「女の子はスタイルがよくなくちゃ!」という価値観を(自然に)刷り込まれてきたことが、現代日本の女性たちの美的な体型への不健康なまでのこだわり、過剰なダイエット志向の根っ子にあるのではないか、と。たかがブルマーではない。枷(かせ)であったかもしれないのだ。

 ◇やまもと・ゆうじ=1953年、愛知県生まれ。関西大学教授。共著に『〈教育〉を社会学する』。

 青弓社 2000円

読売新聞
2017年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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