『文学の歴史をどう書き直すのか』 日比嘉高著

レビュー

7
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文学の歴史をどう書き直すのか

『文学の歴史をどう書き直すのか』

著者
日比 嘉高 [著]
出版社
笠間書院
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784305708236
発売日
2016/11/22
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『文学の歴史をどう書き直すのか』 日比嘉高著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

 一九九〇年代、文学研究にカルチュラル・スタディーズ(文化研究)の大きな波が押し寄せた。「文学」だけを特別視せず、その成立条件を広く社会や文化の中で捉え直していこうとする動きである。本書はその申し子とも言える世代の手になる実践の書。

 文化研究には、作品に時代や社会の痕跡を見る素朴な反映論に終始してしまう落とし穴もあるが、状況と表現とのズレから何が見えてくるか、という分析にまで進むと俄然(がぜん)面白くなってくる。その意味でも「人格の修養」が称揚される中で、漱石の中編小説「野分(のわき)」が果たした批評的な役割や、機械文明を背景にした横光利一の小説「機械」が、同時にそれを超える新たな表現を獲得していくプロセスなどが興味深かった。

 文化の基底にある見えざる動き、という点で言えば、明治三〇年代の絵画の写生論が、小説のモデルは誰か、という発想を促していくことになる経緯、あるいは雑誌の風景写真が植民地主義を醸成していく事情なども面白い。時代の集団的無意識を解明していくためのさまざまなヒントを提供してくれる一書である。

 笠間書院 2500円

読売新聞
2017年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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