『謀略の都(上) 1919年三部作 1』
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全巻通読必至!巨匠の本格スパイ小説三部作
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
個人や一族の秘史を題材に独自の歴史ミステリー作法で読ませるロバート・ゴダード。邦訳も二〇作を超え、もはや英国ミステリーを代表する巨匠のひとりといえようが、その最新作は何と本格的なスパイもの。しかも三部作なのだ。
本書はその第一部に当たる。
主人公のマックスことジェイムズ・マクステッドはイギリス陸軍航空隊の元パイロット。第一次世界大戦終戦後の一九一九年春、彼は元部下のサム・トゥンティマンとともに航空学校を営もうとするが、その矢先、父サー・ヘンリーの訃報が。元外交官のヘンリーはパリで開かれている戦後の講和会議で相談役を務めていたが、愛人の住む建物の屋根から転落死したというのだ。
マックスは遺体を引き取りに兄のアシュリーとともに渡仏し父の遺体を確認、転落現場に立ち会った結果他殺の疑いを強めるが、英国代表団の警備主任アップルビーたちは事を荒立てずにふたりを帰国させようとする。不審を抱いたマックスは真相究明を決意、父の愛人のマダム・ドンブルーと会い、彼女から大金を調達しようとしていたらしい父のメモも見せられ、疑いを強める。やがてヘンリーが大物スパイと関係があるらしいことがわかるが……。
アメリカの書評誌は「ジョン・ル・カレの諜報小説よりも、同時代の貴族の館の人間模様を描いたドラマ《ダウントン・アビー》を思い出させるところがある」と評したそうだが、ヘンリーの死を契機に始まる相続劇についてはなるほどその通り。だがパリを舞台にした講和会議の裏面劇は、血腥(ちなまぐさ)い暗殺場面も交えつつ独自の展開を見せる。派手な銃撃戦があるわけではないが、マックスの活躍と熟練の人間ドラマ演出でたっぷり読ませる。諜報劇に日本の代表団も絡むとなればなおさらだ。
気になる第二部は三月刊で、日本が舞台となる第三部は五月刊。本書を読めば全巻通読は必至だろう。