『夫のちんぽが入らない』
書籍情報:openBD
衝撃の書名、真摯な内容で早くも11万部!
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
……ない。ない! 大型書店を4軒もハシゴしているのにどこにも見当たらない。そんなバカな。つい数日前に発売されたばかりの新刊なのに? 焦る私に向かってうら若い女性の書店員さんが声を掛けてくれる。「タイトルは何でしょう?」―この時たまらずエヘヘと曖昧に笑ってしまった自分を、今は激しく恥じたい。
その名も『夫のちんぽが入らない』。発売から10日足らずで3刷11万部という驚異の売れ行きが話題にのぼっているほか、各書店の検索機に「夫の」と入力すると、真っ先に「ちんぽが入らない」と出る異様な事態を引き起こしている。
本書は同人誌即売会「文学フリマ」で注目を浴びた同名の大人気エッセイを大幅に加筆修正したもの。あとがきには〈さすがにこの題名で世に出すのは難しいだろうと思っていたが、編集者の高石智一さんに「このタイトルが良いんです。最高のちんぽにしましょう」と力強く言われた〉とある。最高のちんぽ……!
「確かに、先輩からは“このタイトルでは企画会議で通らない可能性がある”と言われました。中には“正気じゃない。売る気あるのか?”と詰め寄ってきた方もいましたね」―くだんの高石氏はそう振り返る。「でも、“ふつう”のタイトルにする必要なんてないと思って。むしろこの本には“ふつうはこうである”という常識の枷を問い質すための、真摯なメッセージが込められているんですから」
〈私〉を襲った、「彼の性器がどうしても入らない」という衝撃の事実。その後も二人は「入らない」一方、数々の困難を乗り越えることで、類型的な夫婦のイメージや無用な価値観から徐々に解き放たれていく―本書はその過程が、高潔な道化精神ともいうべき独特なユーモアとウィットの力で綴られているのだ。
ある書店員は〈世の中の“普通”の物差しから外れて苦しんでいる人、疎外感を感じている人に「この本読んでみなよ」と配り歩きたい気分〉というコメントを寄せているが、まさにその通り。万人に届きうる優しい物語が「ちんぽ」の向こうに待ち受けている。