『美は乱調にあり』
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明治期、近代思想の中の新しき女たち
[レビュアー] 図書新聞
明治の女の気概を高らかに謳い上げて出発した雑誌「青鞜」に集まった新しき女たちと、その周辺にいた男たちの絡み合った図が描かれると共に、短期間で急激に吸収されていった新しき思想の歪み、誤解、波紋が炙り出されている。自由恋愛は、らいてふをして男遍歴に走らせ、人前での痴態ぶりに「青鞜」社員はみな去ってしまう。そんな雑誌を一人で引き受けたのは九州の貧しき漁村から上京した炎の少女。担任教師の辻潤の家に転がり込み同棲、結婚、子供を生んだ伊藤野枝は、当時無政府主義思想家の花形、大杉栄のもとに走る。大杉には妻のほかに神近市子もいる。四角関係に耐えられなくなった神近が大杉を刺すことで小説は終わっている。続編『諧調は偽りなり』も近く刊行される。(1・17刊、三五二頁・本体九八〇円・岩波現代文庫)