2017年、最先端の謎解き小説がここにある!

レビュー

35
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狩人の悪夢

『狩人の悪夢』

著者
有栖川 有栖 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041038857
発売日
2017/01/28
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

2017年、最先端の謎解き小説がここにある!

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 探偵の立場はしばしば狩人に喩えられる。では、その狩人の武器は何か。有栖川有栖『狩人の悪夢』に答えは記されている。組み上げられた論理を形にする言葉こそが唯一にして最大の武器なのだ。

 本書は、作者と同姓同名のミステリー作家・有栖川有栖を語り手に据えて、英都大学准教授・火村英生の活躍を描く連作の最新長篇だ。同シリーズは本年で二十五周年を迎えるが、長篇はこれで九作目と意外に少ない。ファン待望の一作なのである。

 雑誌の対談で人気ホラー作家の白布施正都(しらふせまさと)と知り合った有栖川は、京都府亀岡市にある彼の自宅、通称「夢守(ゆめもり)荘」に招待され、楽しい一夜を過ごす。事件は、その翌日に起きた。近所に白布施が所有する別宅で、女性の他殺体が発見されたのだ。死体からはなぜか右手首が切り取られ、部屋の壁にはその血潮を浴びた何者かの左の手形が遺されていた。警察は被害者を追い回していた元恋人を有力容疑者として捜査を進めるが、駆け付けた火村は慎重な姿勢を示す。

 事件現場となった家は、かつて白布施のアシスタントを務め、若くして亡くなった渡瀬信也が住んでいた場所だった。彼の謎に満ちた人生が、事件の謎を解き明かすための重要な鍵となる。渡瀬の存在を鏡として用いることによって事件関係者たちの姿が一つひとつ映し出されていく。そうした、人物の輪郭をくっきりと浮かび上がらせる描き分けと、個々の手がかりを順序よく示していく丁寧な扱い方があるために、決して単純ではない物語を遅滞なく読み進めていくことができる。作者の有栖川は、探偵物語という古い革袋の中に科学捜査という新しい要素を取り入れることに意欲的な書き手だが、本書でもそうした姿勢は顕著である。特に証拠物件の扱い方には感銘を受けた。二〇一七年最先端の謎解き小説がここにある、と断言したい。

「求める解答を得るためには、問題を正しく立てることが大切で、私が今言った問いは二つに分割しなくてはなりません」

 本書の醍醐味は謎解きにある。特に火村がこう宣言してからの展開は、コンマ一ミリでも狂いが生じれば噛み合わなくなる、組木細工職人の仕事を間近で見ているかのような緊張感に包まれている。まだミステリーを心から楽しめたことがない、という方にこそ本書をお薦めしたい所以である。謎解きの物語をいかに魅力あるものとして結実させるかという課題に取り組んできた作者の、真摯な姿勢に思わず胸を打たれた。

新潮社 週刊新潮
2017年2月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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