青春ド真ん中の姿が眩しいミステリ3冊! 「惑星カロン」ほか

レビュー

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青春ド真ん中の姿が眩しいミステリ3冊!

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 青春ミステリのシリーズを追っかけていると、主人公たちが成長や変化を迎える瞬間に胸を躍らせることがある。初野晴惑星カロン』もそんな一冊だ。

 本書は清水南高校吹奏楽部に所属する、穂村チカと上条ハルタのコンビが活躍する〈ハルチカ〉シリーズの第五作である。

 このシリーズの魅力は、謎解きと部活動の模様が不可分に結び付いていることにある。清水南高校吹奏楽部は部員数名の弱小であり、吹奏楽の甲子園と呼ばれる普門館を目指すためにも部員を集めなければいけない。そこでハルタとチカは身辺で起こる謎を解きながら、謎に関わった人物を吹奏楽部へと引き入れていく。謎解きを重ねるたびに仲間が増えていく楽しみが本シリーズにはあるのだ。

 本書でもハルチカコンビは呪われたフルートや音楽暗号が込められた不審なメール、旧校舎で起きた“逆密室”事件といった謎に挑むが、これまでの謎解きや仲間集めの昂揚感とは違う雰囲気がある。というのも最後に収められた表題作で、シリーズの重要人物が大きなターニングポイントを迎えるのだ。ずっと過去に留まっていたその重要人物の時が動き出し、普門館まであと一年を切ったことで、シリーズがいよいよ佳境に入ったことを感じる。読者は期待と不安が入り混じるなかで頁を捲るだろう。

 登場人物たちの変化を描いた青春ミステリでは、米澤穂信の〈古典部〉シリーズ第四作『遠まわりする雛』(角川文庫)が秀逸。やらなくてもいいことはやらない“省エネ主義”の高校生、折木奉太郎をはじめとする「古典部」のメンバー同士に生じる距離感の変化を、一年の歳月をかけて緩やかに、かつ丁寧に紡いでいく。

 逆に変わらない過去を描いたのが津原泰水ルピナス探偵団の憂愁』(創元推理文庫)。本書はかつて探偵団を結成していたメンバーの一人の死から、時計が逆回転するように過去を遡り、主人公たちの謎解きと青春の日々を回想する。二度と戻らない時間の輝きを、ここまで美しく表現した青春ミステリは他にない。

新潮社 週刊新潮
2017年2月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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