『異教のニューカマーたち』 三木英編

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異教のニューカマーたち

『異教のニューカマーたち』

著者
三木英 [著、編集]/藤田智博 [著]/沼尻正之 [著]/岡尾将秀 [著]/中西尋子 [著]
出版社
森話社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784864051057
発売日
2017/01/05
価格
5,184円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『異教のニューカマーたち』 三木英編

[レビュアー] 伊藤亜紗(美学者・東京工業大准教授)

宗教に表れる地域性

 ある日、閉店したコンビニのあとにイスラームの礼拝所が開堂する――そんな光景が、今後都市・地方を問わず急増するかもしれない。少子高齢化による労働力不足の穴を埋めるために、すでに230万もの移民が日本で暮らしている。本書は、そんな彼らの生活を、宗教社会学の視点から分析した。「ニューカマー」とは1980年代以降に移住してきた人々を指す。

 とはいえ、「宣教師の墓場」と言われるほど日本は宗教への警戒心が強い。加えて政教分離を原則とするために、行政の傘がかかりにくいという事情もある。移民たちがこの国で宗教的実践を続けることは相当の苦労が伴うだろうということは容易に想像がつく。

 興味深いのは、だからこそ、宗教や出身地ごとに異なる「生存の戦略」が見られることだ。たとえば東京のビルに開堂されたあるマスジド(イスラームの礼拝所)は、近隣の清掃やホームレスへの食事提供など地域への貢献を積極的に行い、また東日本大震災の際に彼らが核となって被災地支援を行なったことにより、地元住民との壁が低くなったという。イスラームはそれ自体がニューカマー宗教であるため、こうした適応的な態度が功を奏するのだろう。

 他方、仏教やキリスト教のようにすでに認知度のある宗教のサブカテゴリーに属する宗教、たとえばスリランカ人が持ち込んだテーラワーダ仏教(上座部仏教)や、韓国のキリスト教となると事情は異なる。むしろ、創始者の教えや聖典への回帰を重視するような「ハードコア化」が目立つのだ。そうすることで、既存組織の日本人脱会者の受け皿にもなっている。

 宗教は生活の実践の中にある。それゆえ、同じ名前で呼ばれている宗教でも、地域が変われば異なる姿を見せる。国際化するとは世界の中のローカルになることに他ならない。本書は現状観察の書だが、世界が移民問題で揺れる中、今後の日本社会を考える示唆に富んでいる。

 ◇みき・ひずる=1958年、兵庫生まれ。大阪国際大教授。専門は宗教社会学。著書に『宗教と震災』など。

 森話社 4800円

読売新聞
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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