『幻想の坩堝』 岩本和子、三田順編訳

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幻想の坩堝

『幻想の坩堝』

著者
岩本 和子 [編集、訳]/三田 順 [編集、訳]
出版社
松籟社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784879843524
発売日
2016/12/14
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『幻想の坩堝』 岩本和子、三田順編訳

[レビュアー] 土方正志(出版社「荒蝦夷」代表)

多様性の豊かな結晶

 副題に「ベルギー・フランス語幻想短編集」とある。「ベルギー・フランス語」ってなんだろう?……と思ったら、ベルギーは多言語国家で、オランダ語・フランス語・ドイツ語が公用語となっており、そのうちフランス語で作品を書いた作家たちの幻想文学アンソロジーが本書……というわけなのだが、これが滅法(めっぽう)おもしろい。

 モーリス・マーテルランク、ジョルジュ・ローデンバック、トーマス・オーウェン、ジャン・レーなど八作家の九作品が収録されている。『青い鳥』のマーテルランク、『死都ブリュージュ』のローデンバック、『黒い玉』と『青い蛇』のオーウェン、『新カンタベリー物語』や『幽霊の書』のレーと、翻訳のある作家は知ってはいた、読んでもいた。だが、彼らを「フランス語で作品を書いたベルギーの作家」としては、少なくとも私は認識はしていなかった。たまたま読んで「ベルギーの作家」と思えていればまだしも、なかにはフランスの作家とばかり勘違いしていたりもして、それが「ベルギー・フランス語」作家と紹介されてみれば、なるほどそうかと目からウロコ、新鮮なおどろきがあった。

 過去の夢の舞台を現実に目撃してしまった男、時計のコレクションに執着して異界に迷い込む男、若き日の追憶に生きる二老人に迫る怪異と、紡がれる幻想はそれぞれだが、このようにまとめられてみれば、通奏低音のごときなにものかが確かにある。薄明の湿度、薄暮の冷気、夢現の幻、幽冥の人影。それでいて簡明で直截(ちょくせつ)。どこかモダンで洒落(しゃれ)てもいる。

 ベルギー王国は私には未知の国である。気になって聞いてみれば、貿易で栄えて独立国家となったのは一八三〇年、絵画においても文学においても象徴主義の国、多言語多文化で、それこそ坩堝(るつぼ)のごときその多様さが、豊かな幻想を結晶させるのか、興味津々である。もっと読みたい。第二弾を、ぜひ。

 ◇いわもと・かずこ=神戸大教授(仏語圏文学・芸術文化論) ◇みた・じゅん=北里大講師(比較文学)

 松籟社 1800円

読売新聞
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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