『密着 最高裁のしごと』 川名壮志著

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『密着 最高裁のしごと』 川名壮志著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 本書は新聞記者である著者が最高裁判所の世界を分かりやすく紹介。社会の土台の一つを支える仕組みやルールを、社会見学したかのように理解させてくれる。子供がDNA鑑定で別の父親の子だと分かった場合、法律上の父親はどちらになるのか。夫婦別姓問題について最高裁はどう判断したか。また、裁判員裁判の判決が覆されるとき、そこでは何が議論されていたのか。実際の判例に即した丁寧な解説が、事実関係を審理しない法律審ならではの醍醐(だいご)味を浮かび上がらせている。

 面白いのは著者が最高裁を一つの「現場」に見立て、社会におけるその役割を描いていることだろう。ときに人の感情が絡まり合う世俗的な問題から情を排し、全力で法律の問題だけを突き詰めて議論する人々。各章でそんな訴訟の模様を伝え終える度、著者は訴えの当事者や事件の現場にも足を運ぶ。

 取材でそっと触れられる後日談がスパイスとなり、遠い最高裁の「現場」がぐっと身近なものへと引き寄せられる。知っているようで知らなかった最高裁の姿を、現役記者らしい視点で描いた一冊だ。

 岩波新書 840円

読売新聞
2017年2月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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