『ハンザ 12―17世紀』 フィリップ・ドランジェ著

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ハンザ

『ハンザ』

著者
フィリップ・ドランジェ [著]/高橋理 [監修、訳]/奥村優子 [訳]/小澤実 [訳]/小野寺利行 [訳]/柏倉知秀 [訳]/高橋陽子 [訳]/谷澤毅 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622085119
発売日
2016/12/21
価格
5,940円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ハンザ 12―17世紀』 フィリップ・ドランジェ著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

交易路支配した共同体

 僕たちはともすれば現在の国民国家をベースに歴史を遡りがちであるが、実は国民国家の歴史はまだ200年前後で、それ以前はハンザや倭寇(わこう)のような海洋共同体が重要な役割を担っていた。何故(なぜ)なら古来より交易は水路が中心だったからである。現在のドイツは16の州からなる連邦共和国であるが、内二つは自由ハンザ都市である。12世紀半ばから17世紀半ばにかけて北ヨーロッパ交易を支配したハンザは今でも生きているのである。本書は、この人類史上最大にして最長の商人・都市共同体のすべてを詳述した決定版である。

 リューベックが率いたハンザは、14世紀の最盛期には200近い都市を擁し(ドイツ騎士修道会が唯一の諸侯)、バルト海から北海に至る長大な交易路を支配した。ノヴゴロド(ロシア)、ベルゲン(ノルウェー)、ブルッヘ(フランドル)、ロンドンには拠点となるハンザ商館が置かれた。東欧の毛皮、蜜ロウや北欧の塩漬けニシン、干ダラなどがコッゲ船で西方に運ばれ、西欧の毛織物や塩が東方に運ばれた。バルト海と北海を結ぶエアソン海峡の通行を巡ってデンマークやスウェーデンと争いが起こった時はリューベックとハンブルクを結ぶ運河が使われた。

 ハンザの衰退はモスクワ大公によってノヴゴロドの商館が、またブルゴーニュ公やオランダ商人によってフランドルの商館が15世紀末に滅亡したことに始まり、大国が入り乱れて介入した三十年戦争がハンザにとどめを刺した。大国が興隆してくる中で、恒常的な財政や陸海軍を持たず固有の官僚組織や統治機構を持たない中世の緩やかな共同体はなす術(すべ)がなかったのである。

 この名著の翻訳には10年以上の歳月を要したという。7名の共訳者と出版社に深い敬意を表したい。トランプ政権によって自由な交易に黄信号が灯(とも)っている今日、自由な交易を求め続けたハンザ共同体の歴史を紐解(ひもと)くことは決して意味のないことではないだろう。高橋理監訳。

 ◇Philippe Dollinger=1904~99年。ストラスブール大教授やストラスブール市立文書館・図書館長を歴任。

 みすず書房 5500円

読売新聞
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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