『サドのエクリチュールと哲学、そして身体』 鈴木球子著

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サドのエクリチュールと哲学、そして身体

『サドのエクリチュールと哲学、そして身体』

著者
鈴木 球子 [著]
出版社
水声社
ISBN
9784801002036
価格
4,320円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『サドのエクリチュールと哲学、そして身体』 鈴木球子著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

 マルキ・ド・サド。暴力とポルノと倒錯に満ちた『悪徳の栄え』で有名なこの作家は、フランス革命前後に獄中で執筆した数々の小説で非難や賞賛の評判を掻(か)き立ててきた。19世紀には禁書扱いとなり、日本では澁澤龍彦の翻訳をめぐって裁判にもなった。今、サドをどう読むのか?

 本書では、パリでサド研究に当たった若手が彼の生きた時代や思想状況を考察し、書き言葉(エクリチュール)に注目しつつその哲学に冷静な分析を加える。背徳的で非人間的な作品に過ぎないのなら、なぜ今日に至るまで議論の的となっているのか。著者はその問いに果敢に挑んでいる。人間と神、美徳と悪徳、身体、苦痛と快楽、記憶や語りといったテーマから現代にどんな問題が向けられるのか、えぐり出す試みがなされる。

 論じられる文章やストーリーは、確かに常識を破る過激さに満ちている。だが、あえて過剰な言葉を使うのがサドのエクリチュールである。風紀や道徳に監視と自己規制の目を光らせる現代日本の社会が、対極にある放蕩(ほうとう)の悪徳をめぐって文学と哲学からどんな挑発を受けるのか、興味深い。

 水声社 4000円

読売新聞
2017年2月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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