<東北の本棚>二戸の成功体験に焦点

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<東北の本棚>二戸の成功体験に焦点

[レビュアー] 河北新報

 過疎化が進み消滅可能性自治体が取りざたされる。何をするにも「お金がない、やる気がない、若者がいない」と無い無い尽くしを嘆くムラをどう再生させるか。1992年から岩手県二戸市のアドバイザーを務める著者が、住民自ら地域おこしに取り組み、雑穀に代表される地域資源のブランド化に成功した好例を紹介したのが本書だ。嘆き節解消を目指す他の自治体に役立ちそうだ。
 二戸市ではまず、集落ごとの世帯アンケートによる「宝(=地域の誇り)探し」に始まった。そこから住民組織が価値を磨いて発信する「宝興し」へ。控えめだった住民が数々のお宝発見によって意識が変わり、主体的に活動していく経過を記す。
 成功例として全国ブランドに育ったのがアワやヒエなどの雑穀。かつては貧しさの象徴のような作物だったが、健康食ブームで一気に見直された。今や二戸の食文化、郷土食としてPR。無農薬栽培するグループも生まれ、国内最大級の産地化が進む。
 「五穀ラーメン」を皮切りに関連商品も次々生まれ、ツアーによる観光誘客にもつながった。相乗効果として「南部美人」のブランドを持つ地元の酒造会社、特産の浄法寺漆器は海外にも販路を広げた。
 20年以上に及ぶ宝探しで何が変わったのか。著者は「あきらめていた住民の意識が変わり、固有の価値に誇りと自信を持った。お仕着せでない、自立的な町づくりこそ活性化の原動力だ」と断言する。その地を何度も訪れたくなるのは「人の魅力」が大きいからに違いない。
 著者は1949年新潟県生まれ。農学博士。専門はエコツーリズム論。コンサルタント業を経て現在は北海道大特任教授。
 旬報社03(3943)9911=1458円。

河北新報
2017年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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