怪獣少年の<復讐> 70年代怪獣ブームの光と影 切通理作 著

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怪獣少年の<復讐> 70年代怪獣ブームの光と影 切通理作 著

[レビュアー] 佐藤利明(娯楽映画研究家)

◆子どもの複雑な心を投影

 一九七一年、三年ぶりのシリーズ「帰ってきたウルトラマン」が始まった。著者も評者も小学二年生。同年夏『ゴジラ対ヘドラ』が封切られた。しかし怪獣のあり方も六○年代とは大きく変わった。「帰ってきたウルトラマン」にはヘドロ怪獣ザザーンが登場。公害が怪獣となって牙を剥(む)く。ゴジラの宿敵ヘドラはこうした公害怪獣の総決算だった。どの作品でも少年が重要な役割を果たし、怪獣が出現する非日常と視聴者や観客の日常を繋(つな)いでいた。

 著者は九三年、第一作『怪獣使いと少年-ウルトラマンの作家たち』で、脚本家たちがウルトラマンが怪獣を倒す時に感じる痛みに焦点をあてていたことを検証し、高い評価を得た。

 本書の表題は「帰ってきたウルトラマン」第十五話「怪獣少年の復讐(ふくしゅう)」から取られたもの。父が操縦する列車が、怪獣エレドータスに転覆させられたのを目撃した少年が、原因を操縦ミスと断定した大人たちに復讐心を抱く。「好きな怪獣は?」と問われ「エレドータス」と答えた少年は、嫌いな怪獣もエレドータスと言う。こうした子どもの複雑な心理は、六○年代には描かれることがなかった。 

 本書は「ガメラ」の脚本家・高橋二三(にいさん)、『ゴジラ対ヘドラ』の坂野義光監督、七○年代のウルトラマンシリーズの脚本家・田口成光、山際永三監督、真船禎監督の証言に加え、小学館の学年誌の編集者だった上野明雄、「ウルトラQ」「ウルトラマン」の監督・脚本家の一人の飯島敏宏の証言で各章が構成されている。同時に著者が「作品にいつ出会ったのか、その時点でどう思ったのか」を語り検証する。「怪獣少年の復讐」の子役・高野浩幸も登場。どう演じていたかの話が興味深い。

 巻末の福井敏晴との対談を通して、創り手、演じ手、受け手が体感した七○年代の時代の本質が垣間見えてくる。怪獣を通して、現在では希薄となった「こども文化」とその精神史を発見しようとする優れた読み物である。

(洋泉社・2592円)

<きりどおし・りさく> 1964年生まれ。文化批評家。著書『宮崎駿の<世界>』。

◆もう1冊 

 森下達著『怪獣から読む戦後ポピュラー・カルチャー』(青弓社)。怪獣・SF特撮映画の歴史をたどり、その政治性を分析する。

中日新聞 東京新聞
2017年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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