大岡昇平 文学の軌跡 川西政明 著

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大岡昇平

『大岡昇平』

著者
川西 政明 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309025339
発売日
2016/12/19
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

大岡昇平 文学の軌跡 川西政明 著

[レビュアー] 正津勉(詩人)

◆女性造形背景に迫る

 川西政明さんは昨夏、逝去された。享年七十五。代表的著作に『新・日本文壇史』全十巻(岩波書店)があるが、おそらくこの後、これだけの文壇史なるものを独力で構想するのは不可能になった、とその訃報に接して思った。著者は文芸編集者としても活動し、文壇に通じる「文学探偵」とも呼ばれた目利きの人である。かくして著者が満を持して臨んだ対象が、他の誰でもない大岡昇平である。

 戦後の文壇に屹立(きつりつ)する作家。手強(てごわ)い相手だ。まずはその出生の秘密をめぐり、母つるが芸妓(げいこ)だった事実から、後の大岡作品の女性造形の秘密に迫る。つぎに若くして中原中也、富永太郎、小林秀雄という、最高の詩人・批評家と宿命的に出会い、文学的修練に励む、疾風怒濤(しっぷうどとう)の時代がたどられる。さらに、従軍や俘虜(ふりょ)体験から得た<歩哨(ほしょう)の眼>で、戦後『俘虜記』『野火』を発表。いっぽう自身の青春と重ねて中也、太郎の評伝をものする。以下、強固な散文精神に裏打ちされた小説を数多く書き継ぎ、大著『レイテ戦記』に結実する軌跡から、戦後文学の批評精神の再生につなげてゆく。

 なかでも白眉は名作『花影』のモデル「坂本睦子という妖女」の一章である。大岡の愛人であった、この妖女との愛別を詳述する分析結果は、『文士と姦通(かんつう)』の著も持つ名探偵の面目躍如である。

 「文学探偵」川西政明、渾身(こんしん)の遺著だ。

(河出書房新社・1944円)

<かわにし・まさあき> 1941~2016年。文芸評論家。著書『昭和文学史』など。

◆もう1冊 

 大岡昇平著『対談 戦争と文学と』(文春学藝ライブラリー)。戦争体験をもつ作家の大西巨人や古山高麗雄らと語る。

中日新聞 東京新聞
2017年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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