都会に住むか、地方で暮らすか? 「移住」についての大切なポイント

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いきたい場所で生きる

『いきたい場所で生きる』

著者
米田 智彦 [著]
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784799320310
発売日
2017/01/25
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

都会に住むか、地方で暮らすか? 「移住」についての大切なポイント

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

きょうご紹介するのは、『いきたい場所で生きる 僕らの時代の移住地図』(米田智彦著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。いうまでもなく著者は、本サイト「ライフハッカー[日本版]」編集長として国内・海外を行き来する人物。2011年には、SNSでつながった人の家やシェアハウス、ゲストハウスなどを都内限定で泊まり歩くプロジェクト「ノマド・トーキョー」を行ったことでも知られています。

ちなみにその際の結果は、2013年の『僕らの時代のライフデザイン 自分でつくる自由でしなやかな働き方・暮らし方』(ダイヤモンド社)で明らかにされました。いわば、そちらと同じように移住、リモートワーク、二拠点(多拠点)生活、職住近接、シェアリング・エコノミーなどの働き方・生き方をテーマにした本書は、その続編的な位置づけだといえます。

本書のテーマは、国内外に移住した三十三人への取材をもとに、移住のリアルについて描きだすことだ。

東京という日本の「中央」(この言葉とそれに対する「地方」という言葉は嫌いだが、利便上使わせていただく)の大都会から離れた(海外含む)土地での働き方、暮らし方のスタイルとストーリー、きれいごとばかりを並べたガイドブックには書いていない、移住のデメリットやハードルーー専門技術がなくても職につけるか、家族で移り住んだ場合の教育環境はどうか、などーー要は「ぶっちゃけた本音」についても触れたいと思っている。

「移住万歳」「地方万歳」の本ではないということをお伝えしておきたい。現実はそんなに単純ではない。
(「プロローグ」より)

移住を考えている人は少なくないでしょうが、そういう人たちがいちばん望んでいるのは、詰まるところその「ぶっちゃけた本音」の部分ではないでしょうか? そういう意味でも、ここで明かされている多くのトピックスにはリアリティがあるといえます。そんな本書から、きょうは移住についての基本的な考え方が示された第1章「移住について、いま知っておきたいこと」に焦点を当ててみましょう。

いま、移住が注目される4つの理由

移住に対する旧来のイメージといえば、定年退職後のシルバー世代が終(つい)のすみかを探すとか、都市での生活が合わない人がUターンするというようなものが一般的でした。しかし、近年はそのイメージが大きく変わってきたのだと著者はいいます。「働き蜂」として社会の歯車になるのではなく、個人としての豊かさを手に入れるために移住を選択する人が増えてきているというのです。その背後にあるのは、人々の、理想の暮らしに対する大きな意識転換。

もちろん、戦後生まれの団塊世代が一斉に定年退職を迎える少し前から、シニア世代の移住ブームははじまっていました。しかし、現在のムーブメントの渦中には、そのようなリタイア後の移住だけではなく、もっと経済活動に密着した20〜40代という働き盛りの世代が存在するというのです。

だとすれば、なぜ、その世代の移住が可能になり、注目されているのでしょうか? その鍵は、以下の4つの進化なのだそうです。

1.通信技術
ダイヤルアップからADSLへ、そして光回線へと、インターネットの回線速度は飛躍的に向上しました。その結果、常時スマホでネットに接続し、メールやチャット、SNSで世界中の誰とでもやり取りができ、共通の情報を得ることが当たり前の時代となったわけです。

情報格差が狭まり、大容量データの送受信も可能になったことにより、仕事をするうえで大都市も地方や国外も変わらなくなりつつあるということ。

2.リモートワーク
指摘するまでもなく、移住にあたっての最大の懸念材料は、地方に行ってからの収入の減少です。しかし、その不安を払拭するのがリモートワークの浸透なのだとか。

リモートワークとはITを活用した、場所にとらわれない柔軟な働き方のこと。狭い意味では在宅勤務を指す場合もあるものの、リモートワークには注目すべき側面があるといいます。それは、世界的な潮流として、日本の企業でも実験的に取り入れるところが増えてきていること。

たとえばリクルートホールディングスは2016年1月から、上限日数なし・雇用形態にかかわらず、すべての従業員を対象としたリモートワークを本格導入。働き方の選択肢を増やし、個のさらなる成長と新しい価値の創造につなげると発表しているのだそうです。

働き方のダイバーシティ(多様性)が進むなか、個人個人に応じた多様な働き方の選択肢を増やし、従業員ひとりひとりの能力が最大限に発揮される環境を整え、新しい価値の創造を目指すというのです。

3.ソーシャルメディア
スマホの普及により、フェイスブックやツイッター、LINEなどのソーシャルメディア・チャットアプリが国民的に浸透。離れた場所にいたとしても、リアルタイムに意思の疎通ができるようになりました。そして、それは遠距離の国内間、国外間の心理的、物理的な距離を縮め、移住者のコミュニティづくりに多大な貢献を果たしています。事実、フェイスブックやLINEなどでグループをつくり、日常的にやり取りすることなどは、その顕著な例です。

そればかりか、現在では個人的な自己表現ツールとしてだけではなく、企業や街のブランディングにもなくてはならないもの。情報格差の是正にも、一役買っているわけです。

4.LCC(ローコストキャリア:格安航空会社)
日本でLCC が台頭しはじめたのは、2000年代後半から。外資系航空会社がしのぎを削るようになったことにより、一気に利用者が増大したのです。

いうまでもなく、その魅力は安さであり、LCC の発達した海外への渡航や、国内での飛行機を使った移動の選択肢を増やしたことにあります。移動時間の短縮と費用の節約によって、地方との行き来を手軽なものにしているのです。これは、デュアルライフを実践するうえでとても大きな要素だと著者も認めています。

その一方には、地方に住み、新幹線で東京に通勤するというスタイルも。2016年9月にはヤフーグループも、将来的な週休3日の導入を目指すことと、「新幹線通勤制度」(月額15万円が上限)の導入を明かしていますが、こういった取り組みが進めば、地方に住みながら東京に通うスタイルも可能になるかもしれないわけです。つまり、こういった企業の取り組みは、デュアルライフをするにあたって大きなファクターとなるということです。

このように、地方や国外でも日本の大都市と変わらない働き方や収入を得られる手段が確立されつつあるというのです。働き盛り世代の国内外への移住が現実のものとなってきたことには、こうした理由があるわけです。(29ページより)

都会暮らしのメリットとデメリット

福岡出身の著者が東京で長く暮らしてきた理由は、ここに編集業やクリエイティブ産業という「自分の仕事」があったからだといいます。もちろん地方にもそういう仕事はあるでしょうが、圧倒的に母数が違うのだとか。

しかも東京にいれば、電話1本、メール1通ですぐ人に会いに行くことが可能。「現場を見ることができる」という一次情報へのアクセスのしやすさも、東京に住む理由としては大きいのだそうです。

たしかに編集・ライターという仕事にとって、取材やコネクションづくりで人と直接会うことは重要な部分なので、それは大きなメリットといえるでしょう。そう考えると、著者が東京に惹かれたことにも納得できます。とはいえ、もちろん都会暮らしのメリットは、以下のように他にもいろいろあるはず。

・賃金が高い
・娯楽が多い(さまざまなイベント開催など)
・文化度が高い(美術館やコンサートなど)
・外国人が多く異文化に触れられる
・世界への玄関口としての羽田・成田空港の存在
・教育・医療施設の充実
(35ページより)

一方、デメリットしては、

・生活コストが高い(主に家賃)
・通勤ラッシュと通勤時間の長さ
・自然が少ない
・安易で危険や誘惑が多い(ドラッグや闇金など)
・人間関係が希薄
・犯罪件数が多い
(36ページより)

などがあるでしょう。しかし、メリットもデメリットも挙げればキリがなく、すべての長所と短所はコインの表裏のように切り離せないもの。つまりは人それぞれで、「なにを求めているか」によって変わるということです。

かつて、東京には求めているすべてのものが揃っているという幻想があり、田舎から都会に憧れる人の数は現在の比ではありませんでした。しかし著者は、それが徐々に変わってきているように感じるのだそうです。果たして自分にとってなにが大切なのかということを推し量るうえで、ここは重要なポイントといえるのではないでしょうか?(33ページより)

こうした”基本”を踏まえたうえで、国内・海外での地方移住者の本音、イケダハヤト氏など移住経験者との対談、そして著者自身の移住についての考え方などが豊富に盛り込まれています。

興味深いのは、その根底に「東京オリンピック・パリンピックが開催される2020年にはどこに住んでいるか」という視点があること。つまり、ここに書かれていることは、著者だけではなくすべての日本人にとっての”前向きな問題”であるわけです。現時点で移住を考えているかどうかはともかくとしても、これからの働き方・生き方について考えるという意味で、ぜひ読んでおきたい1冊です。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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