『再発!それでもわたしは山に登る』 田部井淳子著

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再発! それでもわたしは山に登る

『再発! それでもわたしは山に登る』

著者
田部井 淳子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163905884
発売日
2016/12/19
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『再発!それでもわたしは山に登る』 田部井淳子著

[レビュアー] 塚谷裕一(植物学者・東京大教授)

登山と闘病、信念の活動

 昨年亡くなられた登山家、女性初のエベレスト登頂者だった田部井淳子氏の、最後の二年間の手記である。

 タイトルのとおり、本書は著者にとって三度目の癌(がん)が見つかった日から始まる。それゆえ内容の半分ほどは、ガンマナイフと抗癌剤を併用した闘病記録である。

 その闘病の最中(さなか)にあって、著者は信じられないほど過密なスケジュールで、山のツアーや講演等をこなす。登山の楽しみを世に、特に若い世代に伝えようという活動だ。癌患者である以前に、七十代後半という高齢とは思えないアクティビティだ。下山したその足で、新幹線とタクシーを乗り継いで病院に駆け込み、治療を受け、抗癌剤を打った翌日山に向かう。巻末の著者の夫・政伸氏の解説によれば「体調を心配して『仕事量を抑えたら?』と言うと、『何言ってるの。私のやりたいことを取っちゃうの?』と反論」してきたという。著者にとっては闘病も登山の一種だったのに違いない。一歩一歩は苦しくとも、必ずや頂上にたどり着けるはず、という信念だったのだろう。

 しかし体力に余裕のある最初のうちこそ、  じっとしている。  じっとしている。   じっとしている。  これが治療なんだ。(二十二ページ) といったユーモアが散見されるが、やがてそれも薄れていく。来年というときが迎えられるのか疑いを抱く頻度も高まっていく。抗癌剤の副作用も日に日にひどくなっていく。それでも海外に遠征し、胸水を抜いてまで高校生の富士山登山プロジェクトに随行し、女性のための登山応援活動をこなし、講演をこなす。

 必ずや頂に達することができる、と信じていたのか。

 これらの活動が今後、実を結び、正しく次世代に伝わっていくことを願うものである。

 ◇たべい・じゅんこ=1939~2016年。福島県生まれ。女性初のエベレスト登頂と七大陸最高峰登頂に成功。

 文芸春秋 1400円

読売新聞
2017年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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