『駒姫 三条河原異聞』 武内涼著

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駒姫

『駒姫』

著者
武内 涼 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103506416
発売日
2017/01/20
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『駒姫 三条河原異聞』 武内涼著

[レビュアー] 橋本五郎(読売新聞社特別編集委員)

清冽さと酷薄非情さ

 文禄4年(1595年)7月15日、関白秀次は叔父の太閤(たいこう)秀吉に謀反の罪を着せられ、高野山で自刃した。正室一の台はじめ側室やその子ら39人は三条河原で刑場の露と消えようとしていた。その中に山形19万石の太守最上義光の最愛の娘、駒姫もいた。東国一の美女の誉れ高い15歳の駒姫は、みちのくの戦乱鎮定に赴いた秀次に見初められ側室に望まれた。秀吉の怒りを恐れた義光は受け入れざるを得なかった。

 しかし、駒姫が秀次のいる聚楽第(じゅらくだい)に嫁したのは自刃12日前、未(ま)だ秀次に会っていなかった。なぜ斬られなければいけないのか。駒姫を助けるべく、羽州一の知恵者らが救出作戦を展開する。秀吉の侍医や正室北政所、秀吉最大のライバル家康などに接触、一縷(いちる)の望みを託す。そして最後は究極のキーパーソンで起死回生の一打を……。果たして駒姫は救えるのか。

 手に汗握るとはこのことだろう。最近読んだ時代小説の中で最も良質である。その所以(ゆえん)は、息をもつかせぬ運びに加えて、権力者秀吉の止めどない猜疑(さいぎ)心と酷薄非情な権力行使の背後にある心理を容赦なく描いているからだ。

 秀吉は、逆らえば斬られるという圧倒的な恐怖を諸大名に与えれば、自分の死後も淀君(よどぎみ)とお拾(ひろい)(秀頼)は天下を治めていけると思案した。そのためには秀次の重臣はもちろん、家族も処刑しなければならない。処刑は天下の耳目の集まる、諸大名の屋敷が立ち並び、寺社の本山が集中する場所でなければならないと考えた。

 秀吉は、侍医の稚児が茶々(淀君)をちらりと見ただけで、「茶々を目で犯しておった」として侍医に命ずる。「屋敷にもどったら、舌を抜き、一物を切り落とし、頭の上に並べよ。……花笠のようにしてやれ。その後で首を叩(たた)き落とせ。――よいな?」

 それだけに、図式的と言われようが、従容として刑に臨む駒姫の凛(りん)とした清冽(せいれつ)さと、最上義光の民を思う慈悲深さが印象に残るのである。

 ◇たけうち・りょう=1978年群馬県生まれ。作家。著書に『忍びの森』、「妖草師」シリーズなど。

 新潮社 1800円

読売新聞
2017年2月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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