現在の中高生が、未来を切り拓く存在になり得る10の理由

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10年後、君に仕事はあるのか?

『10年後、君に仕事はあるのか?』

著者
藤原 和博 [著]
出版社
ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478101889
発売日
2017/02/10
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

現在の中高生が、未来を切り拓く存在になり得る10の理由

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

10年後、君に仕事はあるのか?―――未来を生きるための「雇われる力」』(藤原和博著、ダイヤモンド社)の著者は、「教育改革実践家」。かつて、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務めた人物で、現在は奈良市立一条高等学校校長でもあります。つまり本書では、そんな立場に基づき、仕事が消滅していくといわれている社会において、どのような力を身につければいいのかを説いているわけです。

この本では、親の世代だったら、普通に高校から大学に進学し、普通に就職してサラリーマンになったり公務員になったりするはずだった子どもたちが、そうはなれない未来を予言しています。(中略)では、いったい、そうした不確か時代を生き抜かなければならない君たちは、どんなチカラを身につけておくべきなのか?(中略)この本には、僕が現在勤める奈良市立一条高校で、機会があるごとに生徒や先生、そして主に40代、50代の保護者の方たちに語りかけている10年後(2020年代)の近未来の姿とその対処法をキッチリ盛り込んでおきました。(「はじめに 君たちは、どんな未来を生きるのか」より)

そんな本書のなかから、きょうは終章「君たちが日本の未来を拓く10の理由」に焦点を当ててみたいと思います。現在の中高生こそが日本の未来を切り拓く存在になると確信しているという著者が、その理由を述べた箇所です。

理由1 厳しい経験をした人のほうが成長するから

「ラクだったときより、厳しい現実を経験したときのほうが人は成長する」というのは世の道理。それは就活にしても同じで、売り手市場のラクなときよりも、なかなか内定がもらえないような厳しい就職活動を経たほうが揉まれて強くなれるのだということです。

かつてリクルートにいた著者も、30代前半のころ、会社がマスコミのバッシングを浴びた「リクルート事件」を経験しています。リクルートでは、事件が起こった1988年当時マネージャーだった人は、会社の名刺に頼らず個人の力量を磨けたからこそ、外でも通用する人材が多数輩出される結果に結びついたのだとか。厳しい現実を前にすると、人は自分を鍛える投資をせざるを得なくなるからだといいます。(233ページより)

理由2 子どものころからスマホを武器にした世代だから

グーグルが誕生したのは1998年ですが、それ以降に誕生した「グーグル後」世代は、「ネットで自分を他者とつなげる技術」の達人だと著者。ネットのなかで人生の半分を過ごすことになる初めての世代でもあるので、スマホを自分の手足、あるいは脳の一部として使いこなせれば、知識・情報世界との新しい関係を築けることに。

AIやあらゆるロボットとの共生も、スマホ世代がその範を示すことになるだろうと記しています。AIやロボットの発達によって消滅する仕事の裏側で、新たに生み出される本当のヒューマンワーク(人間にしかできない仕事)を、切り開いていけるというわけです。(234ページより)

理由3 オンライン動画で学び始めた世代だから

学校においては、まだみんな一緒の「一斉授業」スタイルが主流。しかし理解度にも差があることから、落ちこぼれを生み出してしまいがちでもあります。それを克服するためには、いまはまだ過渡期であるものの、個別習熟度別のカリキュラムによるアダプティブ・ラーニング(ひとりひとりに合わせた教育)を実現するしかないそうです。そしてそこに、教育界における「AI×ロボット化」の世界が開けてくるのだとか。

担任する生徒の数を減らしたところで、ひとりの先生がすべての子をフォローすることは不可能。そこで、マスターすべき強化の1単元ごとに何種類もの「優しく理解できる動画」が整理され、理解度に合わせてAIが適切なカリキュラムを組んでくれるようなシステムが期待されているといいます。そうすれば、スマホでの学習履歴の蓄積が効いてくることに。そのため声からの世代は、学校での強制力の限界を超え、自分から学ぶ力を向上させる必要があるということ。(235ページより)

理由4 「それぞれ1人ひとり」の感覚が強くなっているから

本当の意味で、多様な人々との共生やダイバーシティを経験することになるのがこれからの世代。たとえば平均給与が下がっていることもあり、2020年代には共働き世帯は当たり前のものになるはず。万が一、日本が移民を大量に受け入れる政策に舵を切ったとしても、多様性が増して揉まれ、鍛えられることになるといいます。(236ページより)

理由5 シェアする感覚が強くなっているから

経済が豊かになり、社会にはモノがあふれているからこそ、逆に物欲から解放されているのが新たな世代。所有するよりもシェアする時代だということで、車も部屋もシェアすればいいし、旅の宿もAirbnbで十分だということになれば、かかる経費も半減します。モノに投資するのではない新しいタイプの人生のスタイルが、前の世代が開発した技術やサービスによって切り開かれ、次の世代によって開花するということです。(237ページより)

理由6 教育がシフトして、アタマがもっと柔らかくなるから

成熟社会では、どんどん正解のあることが減ってくるといいます。そこで必須になるのはネットで検索したり、他者の力を借りたりする協働型の学習。だから、ブレストやディベートを繰り返して仲間の知恵も借りながら、自分なりに納得し、かつ関わる人たちも納得する解、すなわち「納得解」を導く技術が大事。

ブレストやディベートは、他者と脳をつなげ、自分の脳を拡張する技術でもあると著者はいいます。さっとつながる柔らかい頭を育成できれば、世の中の諸機能を「つなげる力」が上昇することに。すると思考力・判断力・表現力が上がり、社会がもっと柔らかく結びつくようになるはずだというのです。(238ページより)

理由7 社会起業家やNGOで活躍する人が増えるから

自然環境や地球環境に目を向けようという意識が浸透し、東日本大地震が引き金になってボランティア意識が高まりました。そんななか、環境やボランティアに対する若い世代の意識は、前世代とは比較にならないほど強まったといいます。そのため、社会問題をビジネス的に解決する社会起業家が増え、NPOやNGOで国際的に活躍する女性も増えていくだろうと著者は予測しています。(239ページより)

理由8 仲間を募り、ビジョンに集う手法をマスターするから

フェイスブックやツイッターのようなSNSで自分の人生をプレゼンしながら仲間を募り、LINEなどで日常的にコミュニケーションする生活スタイルが定着しました。そして「仲間を募る」サービスは、10年後も廃れないと著者は断言しています。なぜなら、仲間づくりは人間の性(さが)だから。

個人が発案したテーマでチームを組むことが、さらに容易になるということ。それは、夢が実現しやすくなるということでもあるでしょう。だからこそ、夢を実現する技術を着々と磨くことが大切なのだという考え方。(241ページより)

理由9 祖父母の個人資産の恩恵を被る世代だから

1500万円までの贈与税の免除がルール化されたことで、孫の教育資金、結婚や子育て資金にお金が回る機会が増えています。銀行に預けられっぱなしだった現金が、教育や結婚の市場に出てくるわけです。

これからは、団塊の世代(1947〜49年生まれ)から、その子どもの団塊ジュニア(1973〜80年前後生まれ)に、そして団塊世代の孫たち(現在の小中高生)へと、建てた家やマンションが相続されていくことに。そのため、若い世代の多くが、相続によって賃料やローンから開放され、住宅を手に入れることができ流だろうと著者は推測しています。(242ページより)

理由10 そしてなにより、学校の支配が弱くなるから

現在の学校を支えているのは、学習指導と生徒指導の双方で豊富な経験を持つ50代のベテラン教員。しかし彼らは、10年以内に退職していなくなります。一方、団塊世代の大量採用の反動で30〜40代の層が薄いため、特に都市部では20代の新規採用教員を増やしているのだそうです。ところが応募採用倍率が下がり、質が維持できていないのが現状。家庭や地域社会の教育力の低下に加え、ついに学校の教育力が否が応でも低下する時代に入ったということ。

しかしそれは、新しい世代が学校的な価値観、すなわち「正解主義」「前例主義」「事なかれ主義」からだんだん開放されていくことということでもあるはず。さらに注目すべきは、その結果、個人の思考力・判断力・表現力が伸びていく余地が出てくるということ。著者はそのことを前向きに捉え、新しい世代の可能性が開かれるチャンスだと考えているのだそうです。(244ページより)

不確実な時代は、たしかに人を不安にさせます。しかし重要なのは、「そこからどう動き、なにをするか」ということであるはず。そういう意味において本書は、若い人だけに限らず、さまざまな世代が読んでおくべき内容だといえます。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年2月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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