[本の森 医療・介護]『片翼の折鶴』浅ノ宮遼/『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻

レビュー

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片翼の折鶴

『片翼の折鶴』

著者
浅ノ宮遼 [著]
出版社
東京創元社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784488017927
発売日
2016/11/30
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

がん消滅の罠 完全寛解の謎

『がん消滅の罠 完全寛解の謎』

出版社
宝島社
ISBN
9784800265654
発売日
2017/01/12
価格
1,490円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『片翼の折鶴』浅ノ宮遼/『がん消滅の罠 完全寛解の謎』岩木一麻

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 海馬硬化症のために通院していた患者が、突如昏睡状態に陥った。幸い症状は快復したのだが、その後調べてみると奇妙なことが起きていた。存在するはずの病変が消失していたのである。これはいかなる原因によるものかを思考せよ――脳外科講座の講師は、すべてが実話であると断った上で医学生たちに解答を求めた。

片翼の折鶴』(東京創元社)は、現役医師の作家・浅ノ宮遼のデビュー作となる連作短篇集である。全五篇で探偵役を務めるのは臨床医の西丸豊だ。冒頭で紹介したのは、第十一回ミステリーズ!新人賞を受賞した「消えた脳病変」で、学生時代の西丸が講師の提示する謎に挑む。他四篇はその後の彼の活躍を描くもので、どこから失血しているかわからない不審な患者の謎を解く「血の行方」、証人が逆行性健忘に陥ったために不可能状況が生み出される「幻覚パズル」など、密度の高い物語が楽しめる。題材に見合った、冷徹な筆致も魅力的である。

 物語の根底にあるのは、全力を尽くして患者を救わんとする医師の熱意だ。「消えた脳病変」で医学生たちに挑戦した講師は言う。「医者は、答えが見つからないからといって考えるのをやめてはならない」「考えるのを放棄するということは、その患者を諦めることを意味する」のだと。知的パズルが医療への関心と融合した結果、理想的な医学ミステリーが生み出された。

 新人のデビュー作をもう一つ紹介したい。岩木一麻がん消滅の罠 完全寛解の謎』(宝島社)は、第十五回『このミステリーがすごい!』大賞に輝いた作品である。こちらは長篇だ。

 日本がんセンター研究所に勤務する夏目典明は、生命保険会社の友人から不可解な相談を受ける。余命半年の宣告を受け、リビングニーズ特約に基づいて生前に保険金を受け取った患者のがん病巣が、跡形もなく消えたというのだ。しかも同様の事例が他にも起きているという。医学上の常識を覆す奇跡が起きているのか。この、殺人事件ならぬ「活人事件」の裏にあるもの、そしてがん消失そのものの仕組みが本書の中心にある謎なのだ。人体を一つの構造物に見立てた密室事件と表現してもいい。謎は綺麗に解かれることによってさらにその魅力を増すが、本書においては解答編も大胆かつシンプルで美しい。

 主人公の恩師が「医師にはできず、医師でなければできず、どんな医師にも成し遂げられなかったこと」をするために突如職を辞して医大を去るというサイドストーリーがあるが、それも側面から物語を補強している。小説のすべての要素が最後に明かされるがん寛解の謎解きのために機能しており、『片翼の折鶴』同様、医学ミステリーの醍醐味を満喫させてくれる。短篇と長篇で実に水準の高い作品が揃ったものだ。ジャンルの質的充実を改めて認識した。

新潮社 小説新潮
2017年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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