[本の森 ホラー・ミステリ]『殺し屋、やってます。』石持浅海/『沈黙法廷』佐々木譲/『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』歌野晶午

レビュー

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  • 殺し屋、やってます。
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書籍情報:版元ドットコム

『殺し屋、やってます。』石持浅海/『沈黙法廷』佐々木譲/『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』歌野晶午

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 石持浅海殺し屋、やってます。』(文藝春秋)が相当に魅力的だ。七つの短篇からなるこの本書の大半で主人公を務めるのが富澤允という経営コンサルタントである。とはいえそれは表の顔で、実のところは殺し屋だ。一人につき六五〇万円で殺しを請け負うのだ。だが、プロとしての殺しの手際の良さにはさほどフォーカスしていない。本書のミステリとしての旨味は、富澤(もしくは彼の仲間)が、ターゲットや依頼人の奇妙な行動について推理を巡らす点にある。例えば、ある女性保育士が、自宅のアパートではなく深夜の公園で水筒を洗浄するのは何故か、などだ。こうした謎を推理する愉しみが、本書には満ちているのである。また、殺し屋のシステムがシンプルながらもリスクの分散や収益モデルについてきちんと考えられている点にも着目したい。しかもそのシステムがあるからこその、謎のバリエーションも愉しめる。依頼人との応対を担当する人物が母親同伴の依頼人について推理するなんていうパターンも読めるのだ。殺し屋視点の謎解きという設定の魅力と、その設定を活かしきった謎解きの魅力を堪能できるキュートな短篇集である。

沈黙法廷佐々木譲(新潮社)は、対照的にずしりとしている。約五五〇頁の本書は、絞殺された老人について捜査を進める警察小説のパートと、起訴されつつも無罪を主張する家事代行業の女性の裁判のパートに大別できる。前者においては、捜査の進展が丁寧に描かれるだけでなく、警視庁と埼玉県警での手柄争いや、他の不審死との関連、マスコミとの駆け引きなどが物語に奥行きを与え、後者においては、被告人のかたくなに閉ざされた心の変化が、裁判員裁判という制度とあいまって複雑な味のスリルを生じさせている。いずれもプロの作家ならではの小技の積み重ねにより、大作を支えるに足る物語のうねりを読者に提供しているのだ。サイドストーリーとして全篇を貫く青年の視点も、結末において見事に効果を発揮している。静かな緊迫感に満ちた熟練の一作である。

 歌野晶午Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』(KADOKAWA)は、江戸川乱歩の作品を題材にした現代ミステリ短篇集だ。「人間椅子」「陰獣」「D坂の殺人事件」などが、歌野晶午の手によって、七つの現代的な妄執の物語へと再構成されている。決して乱歩のそれをなぞるのではなく、あくまでも著者のオリジナルのキャラクター&ストーリーで綴っており、各篇の鮮やかな結末も著者自身のもの(例えば表題作のDの意味がアレだなんて)。それ故に、歌野晶午の短篇集として十分に愉しめるが、乱歩の作を知って読むと、深読みの愉悦も堪能できる。淫靡/耽美/猟奇とデジタルのマリアージュを満喫されたい。

新潮社 小説新潮
2017年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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