飛ばし読みをしてもOK? 「ゼロ秒勉強術」で効率化を実現しよう

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ゼロ秒勉強術

『ゼロ秒勉強術』

著者
宇都出 雅巳 [著]
出版社
大和書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784479795643
発売日
2017/01/23
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

飛ばし読みをしてもOK? 「ゼロ秒勉強術」で効率化を実現しよう

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ゼロ秒勉強術〜最短で受かる! 世界一シンプルな試験合格法』(宇都出雅巳著、大和書房)の著者によれば、「ゼロ秒」というフレーズには4つの意味が込められているのだそうです。

まず1つ目は「ゼロ秒解答」。試験本番までに、問題を見た瞬間に解答できる、もしくは関連する知識がすぐに思い出せる状態を目指すことだというのです。しかも「思い出せる」という曖昧なものではなく、即答できる状態なのだとか。試験範囲のすべての問題、知識において、こういう状態にすることはおそらく不可能。ただし、基本問題、基本知識について「ゼロ秒解答」できることが合格への最短距離だという考え方です。

2つ目は、「ゼロ秒勉強術」の中核をなすという「ゼロ秒読解」。具体的には「問題集やテキストをどう読んでいくのか?」という、読み方、勉強の仕方だといいます。勉強時間の大きな部分を占める「読む」ことに含まれる「考える時間」と「わかろうとしている時間」は、非効率的で報われないムダな時間。そこで、この時間を「ゼロ秒」にしようという読み方だという考え方です。

3つ目の「ゼロ秒試験」は、試験を受けるまでの時間、自分の記憶や理解の状態をチェックするまでの時間を「ゼロ秒」にする勉強法。試験というよりは「確認」といったほうが近く、つまりは気軽にできる試験を、日々の勉強のなかで大量に行うということ。

最後の「ゼロ秒勉強法」は、勉強に取り掛かるまでの時間を「ゼロ秒」にしていく勉強法。多くの人は「勉強する時間がない」といいつつ、実際に取りかかるまでにかなりのムダな時間を浪費するもの。そこで、この時間をゼロにして勉強時間をつくり出そうという発想です。

「ゼロ秒勉強術」は、徹底的に速さ、スピード、時間にこだわった勉強法です。学校の勉強からみると非常識かもしれませんが、仕事の進め方、考え方から考えてもらえれば、これらがいかに効果的で効率的なのかおわかりいただけるでしょう。(中略)「ゼロ秒勉強術」を駆使して試験勉強をすることで、あなたの仕事の進め方、考え方も効果的、効率的に変化していきます。(「はじめに 『ゼロ秒勉強術』とは何か」より)

試験以外の勉強、読書、仕事にも効果的なのだと著者。序章「『飛ばし読み』こそが速く深い記憶・理解を可能にする」から、飛ばし読みをしていい理由をチェックしてみましょう。

試験勉強で飛ばし読みしていいの?

「ゼロ秒勉強術」の中核となるのは、「読む」という勉強の基本にかかわる「ゼロ秒読解」。これは、わからないところを「わかろう」とせず、止まって考える時間を「ゼロ秒」にする読み方だそうです。

従来、わからないところがあれば読む速度を落としたり、そこで止まって何度も繰り返し読みをしながら、なんとかわかろうとして読むもの。しかし「ゼロ秒読解」では、わからないところをゆっくり読んだりせず、止まって考えもせず、さっさと飛ばして読んでいくというのです。つまり、いわゆる「飛ばし読み」。

なんらかの目的を持ち、ビジネス書などの必要な箇所だけを探して読むというのなら話は別。しかし試験など、しっかりと記憶・理解しなければいけないものや、読む対象が未知または難しい内容であればあるほど、飛ばし読みは可能だということ。ポイントは、次の3つだそうです。

1. 書き手と読み手のストック(知識・経験・記憶)の違い
2. 思考と論理の違い
3. 文章と脳の理解の構造の違い
(20ページより)

「書き手と読み手のストック(知識・経験・記憶)の違い」は、その本に書かれていることを前から順番に、ゆっくりじっくりていねいに「1行たりとも読み飛ばさず」に読んだとしても、著者の思考プロセスを追体験することはできないという考え方。なぜなら、著者と読者が持っている「ストック」(知識・経験・記憶)は違うから。

もちろん、文章をきちんと読んでいくことは大事。しかし、理解するうえでは同じように「ストック」も大事だというのです。そこで書き手と読み手の「ストック」の違いに目を向け、その差を少しでも埋めていく、共通のものを増やしていくことが、理解するためには不可欠。そのために必要なのが、飛ばし読みだということです。

飛ばし読みをしながら、まずはわかるところ、読む気がするところを読む。そうすることで、いまから読もうとしている本になにが書かれているか、筆者がどんなことをいいたいのかがわかってくるわけです。つまり、その本に対するストックを蓄えることができるということ。

こうしてストックを蓄えたら、蓄えたストックも使ってまた読んでいく。こうして飛ばし読みの繰り返しによって効果的にストックを蓄えることによって、書き手のストックに近づきながら理解を進めることができるといいます。(18ページより)

思考と論理は別もの

2つ目のポイントは、「思考と論理の違い」。考えること、すなわち思考と論理は別のものだという考え方ですが、このことを説明するにあたっては、哲学者であり、論理学について多くの著作を持つ東京大学大学院の野矢茂樹教授の文章が引用されています。

「『論理的思考力』とか『ロジカル・シンキング』と言った言葉がよく聞かれるように、論理とは思考にかかわる力だと思われがちである。だが、そこには誤解がある。論理的な作業が思考をうまく進めるのに役立つというのはたしかだが、論理力は思考そのものではない。
 思考は、けっきょくのところ最後は『閃き』(飛躍)に行き着く。(中略)思考の本質はむしろ飛躍と自由にあり、そしてそれは論理の役目ではない。
 論理は、むしろ閃きを得たあとに必要となる。閃きによって得た結論を、誰にでも納得できるように、そしてもはや閃きを必要としないような、できるかぎり飛躍のない形で、再構成しなければならない。なぜそのような結論に達したのか。それをまだその結論に到達していない人に向かって説明しなければならないのである。
(中略)
 思考の筋道をそのまま表すのではない。思考の結果を、できるかぎり一貫した、飛躍の少ない、理解しやすい形で表現する。そこに、論理が働く。
(『新版 論理トレーニング』産業図書/P1~2より)(25ページより)

本に書かれた文章は、著者がすでに理解したことを踏まえて、読み手がわかりやすいように整理して表現した形に過ぎないということ。

わからないところにとどまって、返り読みしていても、それはその狭い範囲における結びつきを探るだけ。それよりも、わからないところにこだわらず、さっさと飛ばし読みをする。そうすることで、他の箇所との結びつきが生まれる可能性もあるのだと著者は主張しています。つまり思考の本質である「飛躍と自由」や「全体と部分の関係をとらえる」論理の力をフルに発揮させるためにも、飛ばし読みという読み方は十分に選択肢となりうるということ。(24ページより)

文章は「1本の線」だが、脳内は「網の目」

最後は、3つ目のポイント「文章と脳の理解の構造の違い」について。文章はまるで「1本の線」のように、一直線で前から順番につながっているものです。専門用語では「線条性」というそうですが、言語は基本的に、この「1本の線」という構造から逃れられないわけです。

一方、その文章の内容を理解する私たちの脳の構造はどうでしょうか?  脳はニューロンと呼ばれる神経細胞が網の目のように「ネットワーク」につながったものであり、決して1本の線としてつながっているわけではありません。そんな脳によって理解するわけですから、1本の線のように理解されることはないはず。

理解にしても、その土台となる記憶にしても、ピラミッドの階層構造のように、最初は大雑把にしか行われないというのです。それをだんだんと理解していくことで、細かいところを記憶・理解していくということ。つまり「1本の線」という文章全体の構造に対し、その文章が表す内容は「階層的」「立体的」であるという矛盾が。

1本の線になっている文章の構造に沿った形で、わかろうとしながら前から順番に読んでいくことは、文章の構造からすれば正しいように思えます。しかし、読もうとしているものが小説のような物語ではなく「知識」である以上、前から順に読んでいく読み方が適切でない可能性があると著者はいうのです。

逆に、飛ばし読みで、まずはわかるところを引っかけながらざっくり全体を把握し、繰り返して何度も読みなおしていく。そうするなかで、だんだんと細かいところへ入っていく読み方は、脳や記憶・理解の構造、文章が表す内容の構造に合わせた読み方だといえると著者は主張しています。(31ページより)

こうした考え方を軸に、以後の章では「ゼロ秒解答」「ゼロ秒読解」「ゼロ秒試験」「ゼロ秒勉強」について詳しく解説されています。勉強や仕事の生産性を高めたいのなら、読んでみる価値はありそうです。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年3月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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