『キオスクのキリオ』
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人物・場面が鮮明に目の前に浮かび上がる
[レビュアー] 図書新聞
駅のキオスクで働く、何も変哲もない「おっちゃん」キリオが繰り広げる連作短編集……と書くと、よくある身辺雑事の話のようにも聞こえる。だが、短編を読み進めるにつれて、読者は今ある日常からこぼれ落ちるような、不思議な感覚に襲われる。キリオの周りに突如現れる、一癖も二癖もある男女。彼ら・彼女らから聞かされる話はどこかつかみどころのないふわふわした印象を抱かせるが、リアルさは決して失われておらず、時折ゾッとする。それでいてじんわりと味わい深い世界が、関西弁の小気味のよい会話によって表現されている。文章一つ一つからその人物や場面が鮮明に浮かんでくるのが、本書の一番の魅力だ。単行本版とは異なる、森下裕美によるカッコいい(!)「キリオ」のイラストも要チェック。(1・15刊、二八八頁・本体六八〇円・ちくま文庫)