『狩人の悪夢』 有栖川有栖著

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狩人の悪夢

『狩人の悪夢』

著者
有栖川 有栖 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041038857
発売日
2017/01/28
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『狩人の悪夢』 有栖川有栖著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

動機より論理で解く謎

 臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖(アリス)のコンビが活躍する人気シリーズの最新長編。四半世紀も続くこのシリーズは著者の代表作であるだけでなく、現代国産ミステリ界の看板作品でもある。本書では、売れっ子ホラー作家の身辺で発生した奇怪な殺人事件の謎にこのコンビが挑む。被害者は装飾品の矢を使って殺害され、死体の右手首が切り落とされ持ち去られていた。現場には犯人のものと思われる血まみれの手形が残されており――

 火村准教授は「フィールドワーク」つまり研究のため捜査活動に関わる。シリーズ当初は警察側に煙たがる向きもあったが、数々の難事件を解決に導き、実績と信用を積み上げてきた今日では、事件発生と同時に臨場の招請を受けるようになった。このあたりの経緯は、永年(ながねん)のファンには誇らしい限りである。

 一方で、このシリーズはいわゆる「サザエさん」方式で、火村もアリスも歳(とし)をとらない。事件の舞台となる社会は変化するし世相も移るが、探偵役は変わらない。これは現実と切れているのではなく、直近の現実にあわあわ左右されないということだ。これまでずっと火村が追及し、アリスが助手として親友として見守ってきたのは普遍的な「論理による謎の解体」であり、だからこのシリーズは、多くの現代ミステリが見せ場としている動機=心情の解明にこだわらないし、頼らない。それは論理にとって必ずしも重要なものではないからだ。この姿勢は過去作のなかでも(濃淡の差はあれ)表明されてきたが、本書では明言されている。

 「動機については無視して考えました。これは私のいつものやり方です」

 実は、火村自身が心の内に不穏な犯罪の動機を秘めている。過去の出来事らしく、詳細は未(いま)だ不明。無駄に語らず語らせない探偵役のこの台詞(せりふ)は、「犯罪という事象に至る人間の業を安易に物語化しない」という宣言だ。しびれる。

 ◇ありすがわ・ありす=1959年生まれ。大阪府出身。2008年『女王国の城』で本格ミステリ大賞。

 KADOKAWA 1600円

読売新聞
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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