『夢遊病者たち 1、2』 クリストファー・クラーク著

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夢遊病者たち 1

『夢遊病者たち 1』

著者
クリストファー・クラーク [著]/小原淳 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622085430
発売日
2017/01/26
価格
4,968円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

夢遊病者たち 2

『夢遊病者たち 2』

著者
クリストファー・クラーク [著]/小原淳 [訳]
出版社
みすず書房
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784622085447
発売日
2017/01/26
価格
5,616円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『夢遊病者たち 1、2』 クリストファー・クラーク著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

議論の深化の呼び水に

 人類初の総力戦・第一次世界大戦は、なぜ、どのようにして勃発したのか。過去百年以上にわたって問われ続けた、この大テーマに挑んだ話題作が邦訳された。従来の通説的理解に異を唱えた、刺激的な書である。大著だが、丁寧な訳注と訳者によるあとがきが理解を助けてくれる。

 大戦の原因は、ヨーロッパ列強が三国同盟、三国協商の両陣営に「分極化」したことに求められることが多い。しかし著者は、それだけでは開戦のメカニズムは説明できないとし、バルカン半島がなぜ「ヨーロッパの火薬庫」になったのか、「第三次バルカン戦争」にとどまる可能性もあった紛争がいかにエスカレートしたのかを、詳細に検討している。

 開戦過程においては、積極的軍事行動を取ったドイツの責任が最も重いという見方が支配的である。これに対して本書は、開戦の「責任」を追及するというアプローチを取らず、各国の強硬姿勢や錯誤の相互作用によって戦争が勃発したとする。具体的には、セルビア、オーストリアがサライェヴォ事件への対応を誤ったことを重視し、英仏露三か国の行動にも問題が多かったと指摘している。著者によれば、各国の指導者たちは、破局の可能性に気付きながらも、紛争を解決しようとする強い意思や実行力に欠け、曖昧で利己的な行動に終始していた。本書が「夢遊病者たち(The Sleepwalkers)」と題されている所以(ゆえん)である。

 本書は世界的に高く評価されているが、批判も受けている。とりわけ、ドイツの戦争責任を回避する方向性を持っているとして、当のドイツの歴史家から批判されている。また、著者が「どのように」戦争が起きたかにより強い関心を寄せているため、「なぜ」に対する回答は、必ずしも明快でない面がある。しかし、その原因はおそらく大戦自体の複雑さにある。本書は、「現代史上最も複雑な出来事」である第一次世界大戦研究の金字塔であり、議論の深化の呼び水ともなるだろう。小原淳訳。

 ◇Christopher Clark=1960年、オーストラリア生まれ。ケンブリッジ大教授。専門は西洋近現代史など。

 みすず書房1=4600円、2=5200円

読売新聞
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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