『よみがえる古代山城』 向井一雄著

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よみがえる古代山城

『よみがえる古代山城』

著者
向井 一雄 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784642058407
発売日
2016/12/20
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『よみがえる古代山城』 向井一雄著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

「お城」のイメージ覆す

 人気マンガ「進撃の巨人」は、人喰(ひとく)い巨人たちの襲来を避けて城壁のなかで暮らす人間たちの物語だ。ここで描かれる「城」は、私たちが知っている日本の「お城」のイメージではない。明らかに西洋や中国の城塞都市のイメージだろう。古来、日本では高い城壁で囲まれたなかに集落を営むという発想は希薄だった。

 ところが、近年の研究の進展で、日本にも「進撃の巨人」ばりの高い城壁で囲われた遺構がいくつも確認されるようになった。たとえば、岡山県総社市にある「鬼ノ城(きじょう)」と呼ばれる遺構。山頂の外周を全長3キロ近い城壁がぐるりと取り巻いていて、その威容は、日本の城というよりは、どちらかと言えば「三国志」などでお馴染(なじ)みの中国の城を思わせる。

 本書は、古代山城(さんじょう)と総称される、そうした遺構がどのような経緯で築かれ、いかなる研究の進展で実像が明らかになっていったのかを簡明に解説してくれる。古代山城は北九州・瀬戸内を中心に30か所近く発見されているが、かつては築造年代も不明で、「鬼ノ城」の名のとおり鬼が築いたという伝承まであった。それが近年では、飛鳥時代(7世紀後半)に東アジアの軍事緊張に対応するために築造されたものであったことがほぼ明らかにされている。

 白村江の戦い(663年)で惨敗したわが国の首脳部は、その後も長く大唐帝国による国土侵攻の可能性を警戒していた。それへの対応が古代山城の築造であり、大慌ての律令制度の導入だった。本書によれば、急拵(ごしら)えの城壁は何より外敵に「見せる」ことを重視していたという。結果的には東アジアの「巨人」の襲来は無かったものの、今に残る城跡は、そんな当時の緊迫した国際情勢を私たちに伝えてくれる。

 「お城」というと、私たちは戦国時代や江戸時代の城郭をイメージしがちだが、そうした先入観を心地よく覆し、日本の古代史が東アジアと連動していたことを改めて実感させてくれる好著だ。

 ◇むかい・かずお=1962年、愛媛県生まれ。古代山城研究会代表。著書に『日本城郭史』(共著)。

 吉川弘文館 1700円

読売新聞
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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