『縫わんばならん』 古川真人著

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縫わんばならん

『縫わんばならん』

著者
古川 真人 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103507413
発売日
2017/01/31
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『縫わんばならん』 古川真人著

[レビュアー] 尾崎真理子(読売新聞本社編集委員)

 葬式を小説に描くのは至難の業らしい。今冬の芥川賞候補となった本作が、選評で未熟とされたのはそこだった。

 長崎の離島に本家のある「吉川家」5代、総勢20人もの物語。それを最後、作者の分身のような東京暮らしの若い孫の視点に負わせるのは、たしかに無理もあった。

 しかし退屈ではなかった。初めの二つの話――80代の祖母世代、敬子と多津子の昔語りは、すでに老耄(ろうもう)によって脈絡もきれぎれで、〈誰かに、言わんばならんことのあった気のするばってん、それは、いったいなんやろうか?〉と当人すらもどかしく思っている。にもかかわらず、記憶の細部をたどっていく方言の響きの、なんと魅力的なことか。

 おそらく作者は、戦争中の奇異な出来事、暇のない日常、持病の苦渋を朝夕につぶやく年配者の気持ちに、じっとこころを傾ける子どもだったのだろう。

 背後に海からの風が吹いている。それを受け止めてきた数々の生命の帆を、「縫い合わせねばならん」と小説を書き始めたであろう作者。

 職人めいた古風な意気が伝わるデビュー作だ。

 新潮社 1600円

読売新聞
2017年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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