『毒! 生と死を惑乱』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
<東北の本棚>薬ばかりではない世界
[レビュアー] 河北新報
毒ヘビに自らをかませて自害したクレオパトラと、ドクニンジン抽出物によって死刑執行されたソクラテスとではどちらが苦しんだか? 興味をそそられる設問から本書はスタートする。
仙台市生まれで東北大講師、青森大教授などを務めた薬学博士の著者が、毒(はたまた薬)と人類との歴史を広範なエピソードを交えて解説する。
迎えうる「第6の大絶滅」の主犯とされる人類。その知性が持つ「毒」と「薬」の二面性についてをも深く考えさせられる。
本来、毒と薬とを分けることはできず、「あるもの」が生物活性物質として身体に良い影響を与えれば薬、悪い結果をもたらしたときに毒と言っているに過ぎず、著者はこのことを「薬毒同源」としている。
その上で、毒草や薬草木とのかかわり、怪しい錬金術や、不老不死をうたった「丹薬」が与えた水銀中毒などの歴史を追う。
炭疽(たんそ)菌、淋(りん)菌、腸チフス菌、結核菌などが見つかった19世紀末はいわば「毒の世界のゴールドラッシュ」という。その正体に迫る人類の闘いが繰り広げられた。
お酒やコーヒーの「毒性」、ニコチン中毒、香辛料まで「毒をたのしむ」人類の章はユーモアや雑学にあふれる。
大量殺戮(さつりく)を可能にするサリンのほかVXなど神経ガス化学兵器や、炭疽菌など生物兵器にも章を割いた。変異する新型インフルエンザまでを読むとぞっとさせられる。
著者は1951年生まれ。東北大大学院薬学研究科博士課程修了。現在、日本薬科大教授。本書は「日本薬用植物友の会」の会報に連載した「新・薬草木よもやま話」の記事を加筆してまとめた。
さくら舎03(5211)6533=1512円。