<東北の本棚>運命災禍に立ち向かう

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浜の甚兵衛

『浜の甚兵衛』

著者
熊谷 達也 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062203319
発売日
2016/11/16
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

<東北の本棚>運命災禍に立ち向かう

[レビュアー] 河北新報

 東日本大震災以降、気仙沼市をモデルにした「仙河海市」を舞台に震災と向き合う小説を書き続けている仙台市の著者が、シリーズの出発点とも言える作品を紡ぎ出した。1人の男の波乱に満ちた半生と困難を乗り越える侠気(おとこぎ)を、方言を生かした文体と緻密な取材で描いた。運命や災禍に立ち向かって生きる人間群像が胸に迫ってくる。
 1896年の明治三陸大津波の場面から物語は始まる。仙河海に住む菅原甚兵衛は、沖買船の商売のため洋上にいて津波の難を逃れる。裕福な魚問屋の社長と女郎屋の女将(おかみ)の子であり、正妻の子の兄とはそりが合わずに鬱屈(うっくつ)とした日々を送っていた。そんな甚兵衛だったが船の衝突事故に遭って莫大(ばくだい)な借金を抱えてしまい、一獲千金を狙ってラッコやオットセイ漁に乗り出す。
 複雑な人間関係に巻き込まれ、紆余(うよ)曲折を経ながらも、甚兵衛はたくましく生き抜いていく。だが、年齢を重ねていく中、「金とは何か」「人間とは何か」という思いが強くなり、残りの人生の行く末を考える。そんな折、また人生の転機となる出来事が起きる。
 災害や貧困、差別などの苦難に直面した時の人間の葛藤が深く描かれ、ままならない人生のありようが生々しく伝わってくる。港町の漁の変遷や文化も昇華されており、説得力のある作品に仕上がっている。本書の主な登場人物は、仙河海シリーズの既刊作の登場人物の曽祖父母や祖父母にあたる構成になっているという。
 著者は1958年仙台市生まれ。東京電機大理工学部卒。中学教諭や保険代理店業を経て、97年に「ウエンカムイの爪」で小説すばる新人賞、2000年に「漂泊の牙」で新田次郎文学賞、04年に「邂逅(かいこう)の森」で直木賞と山本周五郎賞を受賞。毎週火曜日に河北新報夕刊にエッセー「いつもの明日」を連載している。
 講談社03(5395)5817=1836円。

河北新報
2017年3月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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