南北戦争と共通している? トランプ政権の持つ特徴とは

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

トランプがはじめた21世紀の南北戦争

『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』

著者
渡辺由佳里 [著]
出版社
晶文社
ISBN
9784794969484
発売日
2017/01/11
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

南北戦争と共通している? トランプ政権の持つ特徴とは

[レビュアー] 印南敦史

長年にわたって距離や角度を変えて政治を観察していると、理想だけでは社会が動かないことがわかってくる。社会経済的に異なる層の人々と関わると、それぞれの人にとって「よい国」が異なることもわかる。

だから、私は社会的にはリベラルだが、経済的には中道というか現実主義になった。保守とリベラルが意見を取り交わし、バランスを取ることが重要だ。(中略)ほとんどの政治家には「善と悪」、「奉仕精神とエゴ」が混じっているものだ。そして、全員がキャリアのどこかで失敗をおかす。その失敗をどう活かすのかで、政治家の質が変わる。有権者は、それを含めた政治家の実績をしっかりと見るべきだ。でないと、民主主義は危険な「ポピュリズム」になる。(「はじめに」より)

それを強く感じたのが、2016年の米大統領選挙だったと述べているのは、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争: アメリカ大統領選』(渡辺由佳里著、晶文社)の著者。1995年にアメリカに移住したエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家であり、過去10年ほど政治に関するブログを書き、今回の大統領選では政治コラムや現地ルポも書いているという人物です。

本書ではそのようなバックグラウンドに基づいて、アメリカの大統領選にはどのような意味があるのか、この選挙でなにが起こったのか、未来はどう変わるのかを記しているわけです。そんな著者は、「トランプ政権のアメリカ」がどう変わると考えているのでしょうか?

友だちと家族優先のトランプ政権

トランプが勝利した直後の2016年11月14日時点ですでに、著者は「トランプが指定した大統領補佐や閣僚候補のリストを見ると、どのような政権になるのかある程度予測できる」と記しています。そこから半年を経て、いまや多くの人の目に明らかなとおり、身内、そして選挙で自分を助けた人が重視されているわけです。

顕著な例が、重要な政策移行作業チームに、お気に入りの長女であるイヴァンカと彼女の夫を加えた点。また、多くに共和党員がトランプを批判するなか、指名候補支持の立場を貫いた全国委員長のラインス・プリーバスを首席補佐官に任命してもいます。

そればかりか、政策と戦略のアドバイスをする首席補佐官という重要な地位を、「オルタナ右翼」のオンラインメディア「ブライトバート・ニュース」のスティーブ・バノン会長に与えました。

ちなみにオルタナ右翼とは、主流の保守思想とは違ってはっきりとした思想基盤を持たず、白人至上主義、反フェミニズム、排外主義、反ユダヤ主義でつながるオンライン活動。「ブライトバート・ニュース」は陰謀論が多いことでも知られています。

また、選挙中にメディアで応援に尽力したニュート・ギングリッチ元下院議長、ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長、ジェフ・セッションズ上院議員、元アラスカ知事で元副大統領候補のサラ・ペイリン、予備選のライバルで脱落後にトランプ支持を表明したベン・カーソン医師なども、官僚のリスト内に。内務省長官の候補はすべて石油・天然ガス業界のインサイダーであり、このうち誰が任命されても、オバマ大統領時代の環境保護政策は覆されることになるわけです。

しかしトランプは、大統領選出馬前は中道・穏健派でした。事実、1999年のCNNのインタビューでも「民主党は左寄りすぎるし、共和党は右寄りすぎる」と、二大政党のどちらも自分には合わないと述べているそうです。しかし出馬する以上は勝ちたいので、第三政党は考えないと示唆していたとか。

また、2008年の予備選でヒラリー・クリントンがオバマに敗れたあとのインタビューでは、「ビル・クリントンは偉大な大統領だった」「クリントン時代をふりかえってみてごらん。戦争はなかったし、景気はよかったし、みんな幸せだった」「ヒラリーは賢く、タフで、とてもいい人だ」と絶賛してもいます。

そんなこともあり、(選挙に勝つために極右のスティーブ・バノンやジェフ・セッションズ上院議員を利用したけれども)いったん当選すれば、中道・穏健派の政策をとるのではないかと期待されていたわけです。

ところが上記のような人選を見ると、現実的にトランプが穏健派になる見込みは非常に少ないと、著者はこの時点で予測しています。そして、そこから約半年を経た2017年3月の現時点において、穏健派とは逆行した動きを見せていることは周知の事実。(223ページより)

南北戦争と共通する皮肉な政策

トランプが勝利した2016年大統領選挙と南北戦争には、いくつかの共通点があると著者は指摘します。まずは、経済の地域差と人種問題で対立し、既得権益を失いかけているものが強く争うという様相。そしてもうひとつは、権力者と労働者との関係。南北戦争をはじめたのは南部の裕福な大農園主だったわけですが、実際に戦場で北部と戦ったのは、土地も奴隷も所有しない白人労働者。つまり彼らは、農園主の利益と権力を守るために命を落としたということです。

さて、今回の大統領選で、トランプは労働者に多くの約束をしました。ところが閣僚候補の顔ぶれを見ると、労働者より裕福な層に有利な政策になりそうだと(本書執筆時点で)著者は指摘しています。たとえば商務長官に任命されたウィルバー・ロスは、企業再建を専門にする投資家であり、リストラなどで労働者を犠牲にすることから「ハゲワシ(弱者を食い物にする人)」と呼ぶ人も。

またトランプは選挙中、ゴールドマン・サックスがヒラリーを操っていると、ウォール街との癒着を非難してきたにもかかわらず、経済担当大統領補佐官にゴールドマン・サックスの社長兼最高執行責任者(COO)であるゲイリー・コーンを、財務長官に同社元幹部のスティーヴン・マヌーチンを起用しました。

南北戦争のきっかけは、1860年の選挙で共和党のリンカーンが大統領に選出されたことでした。リンカーン自身は南部に奴隷解放を求めないと約束していたものの、南部の州はそれを信じず、奴隷制度廃止を押しつけられることを恐れて合衆国から離脱し、「連合国」を結成したわけです。

一方、2016年の選挙では、既得権益を守ろうとするトランプが勝利し、民主党は選挙の敗北を受けて、マイノリティや移民より地方の労働者階級の白人を優先する方向転換をすることになるでしょう。これにより、21世紀の南北戦争は回避されるかもしれないものの、ヒラリー政権で活発になると期待されていたテクノロジーやリニューアルエネルギー産業は打撃を受け、それが大国アメリカの弱体化につながる可能性があると著者はいいます。(225ページより)

日本はトランプ政権とどうつきあうべきか

トランプは、よくも悪くも次の行動が読めない人物です。しかし、過去と選挙中の言動を観察していると、ある特徴は一貫しているといいます。自分を批判したり悪くいったりした者は徹底的に攻撃して潰すもものの、自分を賞賛したり支持したりしたものには好意的であり、あとでポジションなどの褒賞を与えるという部分がそれにあたります。

選挙運動のなかでトランプは、日米安全保障条約に基づく日米同盟を見なおすことを何度も口にしました。「日本に払わせろ」という彼の主張に群衆は湧いたわけです。また、オバマ政権が推進していたTPPについても「大惨事」と酷評し、「自分ならもっとアメリカに有利な協定を結ぶ」と豪語しました。

しかし厄介なのは、トランプが、選挙中の見解を突然変えることがあるという事実。たとえばNATO(北大西洋条約機構)を非難し、脱退するべきだと主張していましたが、オバマ大統領から政権移行のための説明を受けたあとには、NATOとの関係はそのまま維持すると心変わりしています。これは日米関係にもいえることで、いったん現実を知れば、現状維持に切り替える可能性は大いにあるということでもあります。

トランプは政治のアウトサイダーとしてのビジネスマンなので、これまでに本当のパイプラインになってくれていた共和党知日派とのつながりを持ちません。しかし、トランプが外交初心者だということは、日本にとってチャンスかもしれないと著者。外交の専門家と国際ビジネスで成功しているカリスマ的な日本の起業家が戦略を練れば、日本に有利な交渉ができる可能性もあるということ。

事実、現時点においてトランプは日本と安倍首相に対して
「日米関係は日本だけでなく。アメリカにとって非常に重要」としておおむね好意的に捉えています。かつてのロナルド・レーガン大統領が、マーガレット・サッチャー英国首相や中曽根康弘首相(当時)など個人的に仲のよい国に甘く、そうでない国には徹底的に厳しかったことは有名です。つまりトランプも、そんな大統領になる可能性があるというのです。(227ページより)

こうした将来的な話のみならず、その根幹をなす「アメリカの政治のしくみ」についてもわかりやすく解説された内容。今回の大統領についてはもちろんのこと、アメリカという国のあり方ををさまざまな角度からとらえることができるはず。いまこそ、ぜひとも読んでおきたい内容です。

(印南敦史)

メディアジーン lifehacker
2017年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

  • このエントリーをはてなブックマークに追加