『本屋、はじめました』 個人で店を開くヒント満載

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個人で店を開くヒント満載 賭けっぷりが爽快!

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 個人で新刊書店を開業する人は、現在、ほとんどいないと言われている。それは、商品としての書籍や雑誌にいま勢いがないせいかもしれないし、個人が新しい店を開くためのあれこれ(物件探しや資金調達など)が困難であるせいかもしれない。これは書店だけのことではない。レストランも、服を売るのも、みんなチェーン店の時代なのである。

 でも、やる人はゼロではない。この本の著者は、実際に昨年、個人で書店を開いた。場所は東京の荻窪。店の名前はTitle。困難なはずのことは、いかにして可能になったのか。その実録である。

 とても元気な本で、読めば気持ちが明るくなる。著者が自分の人生を「本を売る」ということに賭けているのが伝わってくるが、その賭けっぷりが爽快なのである。大手書店の、そのなかでも超大型店舗で働いていた経験。そこで得た知識、技術、人間関係。それらをすべて手の届く距離において参照しながらも寄りかからず、孤独をおそれずにわが道を行く。そんな感じだろうか。

 店を開く過程についても、開業後の日々の業務についても、自分という肉体がどのように動いたかが具体的に綴られている。そのため、店のコンセプトや営業方針などアタマで考えることについても、データによるのとは違う説得力が出ている。店にまつわるすべて、「やるのは自分自身」なので、まずは自分の美意識や倫理道徳を納得させる道を選ぶ。これぞ個人営業の醍醐味だ。

 力のある商品に絞ること、店内環境を「本と出会う空間」に特化すること、本と人との出会いを邪魔しないこと。引き算で成立する店づくりは、まさに大手チェーン店の不得意なところだろう。

 事業計画書から開店後の売上まで大公開。こまごましたコストの話だって、手抜きなし。「自分はこうした。さあ、次は誰の番?」と、勢いのいい声がきこえるようだ。

新潮社 週刊新潮
2017年3月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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