“芥川賞”から一段進んだ滝口悠生ほか 今月の文芸誌

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芥川賞受賞作からさらに一段進んだ滝口悠生最新作

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)

「群像」2017年3月号
「群像」2017年3月号

 1月12日、三島由紀夫の未公開インタビューテープが見つかったとTBSが発表した。収録は1970年2月19日、『豊饒の海』第3部『暁の寺』の脱稿当日で、自決の9ヶ月前にあたる。存在がまったく知られていなかったものだ。

 その抜粋が「群像」3月号に掲載されている。聞き手は日本文学翻訳家の英国人ジョン・ベスター。三島の自伝的評論『太陽と鉄』を訳した縁で起用されたようだ。講談社で行われたものと推察され、TBSは同社に確認したが記録は見つからず、経緯は謎のままだ。歌舞伎や演劇に対する批判から平和憲法の糾弾へと内容にとりとめはないが、「自分の文学の欠点は?」という問いに三島が「小説の構成が劇的過ぎること」と答えているのが面白い。

 小説では、滝口悠生「高架線」(群像)が今月は一番だろう。この作者らしく語りの趣向が特徴的な350枚の長篇。複数の語り手によるモノローグが数珠つなぎになっているのだが、「新井田千一です」「七見歩です」という具合の自己紹介から話は始まる。それも各人が話の切れ目ごとに毎度、何度も何度も名乗るのである。「かたばみ荘」というおんぼろアパートの住人やその関係者が話していることはすぐにわかるものの、奇妙な構成の真相は後半までわからない。話しぶりが冗長で脱線しがちなのは作品の狙いから必然なのだが、それも最後まで読んでわかることだ。

 驚くのは、そんな散漫になりかねないお話を飽きさせずに読ませてしまう作者の技量である。オチもあり、感動もある。芥川賞受賞作『死んでいない者』からさらに一段進んだ印象だ。

 木村紅美「夢を泳ぐ少年」(すばる)も凝っている。43歳で独身の溝口鏡子が、孤立気味の同僚・山村詩穂に接近を試みるところから小説は始まる。「寂しい中年独身女同士の交流を描くとかその類か?」と辟易しかけた予断は、だが序盤で引っ繰り返される。えええ、何その展開!? どうやってもネタバレになるので詳細は書けないのだが、飛び道具的な仕掛けが現代女性をめぐる問題を実によく浮かび上がらせている。

新潮社 週刊新潮
2017年3月2日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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