七度目の正直で受賞 “明治開化”ミステリー

レビュー

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木足の猿

『木足の猿』

著者
戸南浩平 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334911508
発売日
2017/02/15
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 第二〇回日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作である。新人賞の最終候補に複数回残るということは、すでにプロの力量の持ち主と見て間違いない。本書の著者はそれに六回も残っている猛者だが、逆にいえば、それでも受賞出来なかったというところに賞取りの難しさがある。

 七度目の正直となった本書はいわゆる明治開化ものであるが、パイオニア山田風太郎のそれとはいささかタッチが異なる。

 奥井隆之は一七年前、親友・水口修二郎を斬って逃亡した矢島鉄之進を追って脱藩、敵討ちの旅に出た。幕末動乱の時代に京から江戸へと下り探索を続けたものの見つからず、時代は明治に移り変わる。

 明治九年(一八七六年)秋、今は横浜にいる奥井は、山室玄蔵という異形の男と知り合う。巷では英国人が相次いで断首される惨殺事件が起きていたが、その犯人一味に矢島がいるというのだ。山室は被害者の遺族に話をつけ犯人探しに乗り出していたが、奥井も協力することに。

 ふたりは第二の被害者、弁護士ヴィクター・グレイの関係者を中心に聞き込みに回り、やがて第一の被害者である茶商ディック・ハワードが阿片の販売に関わっていたらしいことが判明するが……。 

 奥井は若いとき左足の膝下を失っていた。隻脚ではあるが居合いの使い手で、長崎留学で英会話も学んでいる。開国はしたが治安は乱れたままという混乱の世に相応しい探偵キャラクターというべきか。

 彼と水口の友情譚が随所に挿入される辺り、チャンドラーのハードボイルドを思わせるが、山室を始め卑しい身分の者たちの壮絶な生きざまが浮き彫りにされるところは日本残酷物語的。リアリスティックなそのドラマ演出はさすが最終候補七回の力業だ。

 今野敏『サーベル警視庁』、伊東潤『走狗』等、最近明治開化ものの快作が続いているが、本書もこのジャンルの新たな波となる一冊かも。

新潮社 週刊新潮
2017年3月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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