“言葉”が気になる! 3冊  『三省堂国語辞典のひみつ』ほか

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“言葉”が気になる!辞典・辞書もの3冊

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

「的を得る」と聞けば「的は射るものだろう」と思い、「絆が深まる」と聞けば「絆は強まるものじゃないのか」と言いたくなる。言葉は変化するものだと分かっているが、なんでも受け入れられるわけじゃない―と考える自分が意固地に思えてくるエッセイ本、それが国語辞典編纂者、飯間浩明『三省堂国語辞典のひみつ 辞書を編む現場から』だ。著者は日常語も多く採用し、簡潔で、かつ実感的に分かる説明を目指す『三省堂国語辞典』の編集委員。過去の文献や書籍新聞雑誌はもちろん、テレビ番組や流行歌の歌詞、町中の看板に至るまで目を配る。先述の「的を得る」や「絆が深まる」も多方面から検討して間違いとは言い切れないと判断する経緯には説得力がある。印象的なのはなんでもすぐ「誤用」「言葉の乱れ」と断じることなく、いったん受け止めてみる著者の懐の深さ。人一倍言葉に敏感な人なのに……いや、だからこその姿勢なのだろう。

『三省堂国語辞典』の兄弟分にあたるのが『新明解国語辞典』だ。こちらにまつわるエッセイといえば赤瀬川原平の1996年のベストセラー、『新解さんの謎』(文春文庫)。この辞書のユニークさを世に広めた一冊だ。著者は主観が混じったユーモラスな語釈の数々を手がかりに、執筆者の個性を見出していく。軽妙な語り口に図版や写真の妙も相まって、何度も噴き出すこと間違いなし。読後は間違いなく、読みものとして新解さんをめくりたくなるはずだ。

 作り手の個性に注目する本といえばサイモン・ウィンチェスター『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』(鈴木主税訳、ハヤカワ文庫)。19世紀後半からスタートし、完成までに70年を要した『オックスフォード英語大辞典』の編纂事業。編纂主幹のジェームズ・マレー博士は多くのボランティアのなかに一人、実に的確で細やかな用例を送ってくる人物がいることに気づく。その正体は……? 言葉を愛する二人の男の、数奇なめぐり合わせに心打たれるノンフィクションである。

新潮社 週刊新潮
2017年3月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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