「本屋大賞」投票締め切り 本命は…〈ベストセラー街道をゆく!〉

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蜜蜂と遠雷

『蜜蜂と遠雷』

著者
恩田陸 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344030039
発売日
2016/09/23
価格
1,650円(税込)

本屋大賞が投票締切 やはり本命はこれか!

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 毎年恒例、本屋大賞の季節がやってきた。先日、二次投票が締め切られ、あとは4月11日の発表を待つばかり。今回は、芥川賞の受賞作にもかかわらず(?)選考委員の山田詠美に「候補作を読んで笑ったのは初めて」と言わしめ、59万部の快進撃を続ける村田沙耶香の『コンビニ人間』(文藝春秋)がノミネートされているが、現状の売上部数がそのままランキングに反映されるわけではないのが同賞の面白いところ。コンセプトはずばり「売り場からベストセラーをつくる!」である。

 ここで下世話にレース予想をさせていただくなら―やはり本命は恩田陸『蜜蜂と遠雷』ということになろうか。国際的なピアノコンクールを舞台に、己の才能をかけてぶつかりあう若者たちの姿を鮮烈かつ濃密に描き切り、直木賞を受賞。「文章からピアノの音が聴こえてくる!」と感動する読者が続出している。ちなみに歴代の本屋大賞受賞作の傾向を眺めてみると、いわゆる「お仕事小説」、それも、ちょっと特殊な業界の舞台裏を見せてくれる作品が多いことがわかる。例えば、昨年の受賞作『羊と鋼の森』はピアノの調律師、2012年の『舟を編む』は辞書編集者の物語だった。他にも上位には、アニメ業界を描いた『ハケンアニメ!』や、林業をモチーフにした『神去(かむさり)なあなあ日常』などがランクイン。その点においても『蜜蜂と遠雷』は、ピアニストだけでなく、ステージマネージャーや調律師、取材スタッフなど、コンクールを支える側の人間たちの姿まで細やかに描けていることも見逃せない。

 現在の発行部数は27万部だが、本屋大賞の動向次第ではさらなる伸びも期待できる。実際、『羊と鋼の森』は初版6500部からスタートし、50万部超えを果たした。これは同賞の「売り逃し防止システム」の貢献が大きい。従来の文学賞と異なり、発表1カ月前には出版社と作者にあらかじめ連絡が入るため、在庫の確保や帯文の用意に充分な時間をかけられるのだ。

 ベストセラーの行方は作り手側だけでなく、「売り手」側の準備にもかかっている。

新潮社 週刊新潮
2017年3月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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