『貧者の息子』 ムルド・フェラウン著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

貧者の息子―カビリーの教師メンラド

『貧者の息子―カビリーの教師メンラド』

著者
ムルド・フェラウン [著]/青柳悦子 [訳]
出版社
水声社
ISBN
9784801002418
発売日
2016/11/01
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『貧者の息子』 ムルド・フェラウン著

[レビュアー] 長島有里枝(写真家)

貧困が人に与えるもの

 アルジェリアの山岳地帯カビリー地方には、北アフリカの民、アマジグ人が住む。七世紀以降流入したアラブ文化への同化を拒み、独自の言語と文化を守ってきた彼らは、伝統を守るがゆえに貧困を強いられてきた。カビリー人は、耕作に不向きな山あいの土地で、オリーブとイチジクを育て、羊飼いとして暮らす。そんな集落の一つに住むメンラド一家の暮らしが、やがて教師になる長男フルルの成長を通じて描かれる本書は、同じくカビリーに生まれ、地元小学校の教師であったフェラウンの自伝的作品と言われている。

 本書はまずなにより家族の話だ。アラブ文化とは一線を画しながらもイスラム教を信仰する集落の人々は、遠く近く、ほとんどが親戚関係にある。男たちの多くは農業と牧畜を生業とするが、金が必要になると出稼ぎのために渡仏する。女たちは伝統工芸品を作って穀物に換え、家を守る。わずかなクスクスとイチジクを食べる暮らしは貧しいが明るい。隣人や家族の間で起こる小事件に彩られた日常が、感情表現豊かなカビリーの女たちを中心に描かれてゆく。

 印象に残ったのは、フルルの二人の優秀な叔母が辿(たど)った、悲しい運命のエピソードだ。結婚し、母になるより他に選択肢がなかった女性たちの、描かれない悲しみや怒りまでしんしんと伝わってくる。四人の娘を持ったフェラウンが女性の教育に力を注いだ理由は、ここにあるのかもしれない。

 フルルを進学させることは、たとえ奨学金が貰(もら)えても家族には大きな負担となる。一家は働き手を失い、さらなる労働と借金を父親に強いるからだ。生活費を切り詰め、奨学金から仕送りをするフルル。貧困が人から奪うものと同時に、与えるものについても考えさせられた。現在、カビリー地方はテロや誘拐が頻発する地として知られている。フルルの親族はまだそこに暮らしているだろうか。本書を読み、彼らのことをもっと強く知りたいと思った。青柳悦子訳。

 ◇Mouloud Feraoun=1913年仏植民地下のアルジェリア生まれ。62年、テロで死去。小説に『大地と血』。

 水声社 2800円

読売新聞
2017年3月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加