『裸足で逃げる』 上間陽子著

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裸足で逃げる

『裸足で逃げる』

著者
上間 陽子 [著]
出版社
太田出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784778315603
発売日
2017/01/31
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『裸足で逃げる』 上間陽子著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

 この本は、琉球大学で教鞭(きょうべん)を執る著者が四年間に亘(わた)り行った聞き取り調査をまとめたものだ。調査の対象は、著者が生まれ育った土地・沖縄の夜の街に生きる少女たち。

 劣悪な家庭環境、不良集団への加入、十代での出産、DV、離婚、子を養うべく夜の街へ――彼女らの語りを繋(つな)ぎ合わせると、ある定型の連鎖が完成する。著者の丁寧な聞き取りは、連鎖の真っ只(ただ)中で思考停止に陥りがちの彼女らに、自分の状況を俯瞰(ふかん)させる役割を担う。その渦から指先だけでも抜け出そうとする日々の記録に、胸が痛む。

 印象的だったのは、女性が陥る連鎖の隙間に、男性が嵌(は)まる思考の連鎖が見え隠れしたことだ。この土地で生き抜くために必要だと思い込んでいるらしき男性性が生む暴力、土地に深く根付いている先輩後輩主義が生む女性軽視。彼らもまた、街から臭うかくあるべきという空気に巻き込まれているのではないか。

 少女の人生を壊す男たちを庇(かば)う気は全くないが、裸足(はだし)で逃げなければならなくなる女性をこれ以上増やさないよう、彼らの呪いを解く方法にも心が向く重層的な一冊だ。

 太田出版 1700円

読売新聞
2017年3月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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