直木賞もその勢いは止まらない 「恩田陸」新刊

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終りなき夜に生れつく

『終りなき夜に生れつく』

著者
恩田, 陸, 1964-
出版社
文藝春秋
ISBN
9784163906096
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

直木賞受賞後もその勢いは止まらない

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 今年1月、『蜜蜂と遠雷』でついに直木賞を受賞した恩田陸。25年のキャリアを考えれば遅すぎた受賞だが、その勢いは止まらない。旧日本軍ゆかりの土地に生じる“裂け目”を封じるため、ぼやきながら日本各地を巡る週末ヒーロー/ヒロインを描く連作集『失われた地図』に続き、早くも直木賞受賞後2冊目となる新刊『終りなき夜に生れつく』が出た。2013年刊行の大作『夜の底は柔らかな幻』(文春文庫)の前日譚にあたる中編4編を収める。

 物語の背景は、“イロ”と呼ばれる様々な超能力を持つ“在色者(ざいしょくしゃ)”が少数ながら実在する世界。とりわけ在色者の数が多い途鎖(とさ)国(地理的には高知県とほぼ重なる)は、日本から独立。入出国を厳しく制限し、入国管理局が大きな権限を持つ。その途鎖国を舞台にした派手な超能力アクションだった『夜の底…』に対し、本書では、いずれも“夜”をタイトルに持つ4話がしりとりのようにつながり、前作の個性的な登場人物たちの過去を解きほぐしてゆく。

「砂の夜」は、国際的な医療ボランティア組織から北アフリカ某国に派遣されたチームが、部族の閉ざされた集落で起きた連続怪死事件に巻き込まれる本格ミステリタッチの作品。医師の須藤みつきが軍(いくさ)勇司(前作ではバーのマスター)と親友になった経緯が語られる。

 続く「夜のふたつの貌(かお)」では、さらに時代を遡り、途鎖大学医学部時代の軍勇司の視点から、キャンパスの一匹狼だった葛城晃(前作では途鎖国の入国管理局次長)との出会いを描く。不良グループとの関わりとか、ちょっぴり「悪徳学園」(平井和正)風で懐かしい味わい。

 第3話「夜間飛行」は、最終学年を迎えた葛城晃が、入国管理官の適性をテストする無茶なキャンプに参加する話。その最後に、後年、複数の大規模テロ事件を起こして“犯罪者たちの王”と呼ばれることになる神山倖秀(ゆきひで)が登場し、東京で起きた連続殺人事件を描く最終話「終りなき夜に生れつく」につながる。このタイトルはアガサ・クリスティの傑作長編の邦題として有名だが、出典はウイリアム・ブレイクの詩「罪無き者の予言」。超強力な在色者である神山は、作中でこの詩を引用し、「僕たちは、同じ種族だ。永遠に終わらない夜を生きていく種族。そこでしか生きられない種族」と言い放つ。

 話はそれぞれ独立しているが、『夜の底…』のすばらしくかっこいい予告編とも読めるので、前作を未読の方も、心置きなく本書からどうぞ。

新潮社 週刊新潮
2017年3月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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