過激で悲惨でグロテスクで。異端AVメーカー30年史!
[レビュアー] 都築響一(編集者)
AV業界の老舗メーカーV&Rプランニングが、創立30周年を記念してリリースしたDVDブック。なるべくきれいな女の子に、なるべくエッチなことをさせる、というAVの王道から遠く離れた場所で、すさまじく過激な作品を世に送りつづけた異端のメーカーによる、過去の名作・怪作・問題作14時間ぶんが、「白盤」「黒盤」と名づけられた2枚のDVDに収められて、異界への正門と裏門のように本を挟み込んでいる。
「鬼のドキュメンタリスト」の異名をとる安達かおる監督率いるV&R。本書に収められた作品のタイトルを眺めるだけで、その異端ぶり、とりわけ80年代後半から90年代にかけての暴走の凄まじさを感じ取れるだろう。『ジーザス栗と栗鼠スーパースター』『糞尿家族ロビンソン』『ボディコン労働者階級』『水戸拷悶』『わくわく汚物ランド』『ウンゲロミミズ』……。
男のオナニーツールというそもそもの役割からすれば、かつてV&RをV&Rたらしめた多くの問題作は、その過激さ、悲惨さ、グロテスクさにおいて、まるでツールの役割を果たさなかったが、だからこそ、それらは与えられた退屈な役割の向こう側にある表現の領域へと飛び込んでいった。
映画至上主義者はけっして認めないだろうが、この時代の日本の映像表現でもっともアヴァンギャルドだったのは、有名監督による映画でもなければ、一流現代美術作家によるビデオアートでもない。コンビニ袋やティッシュが散らかったアパートの、テレビデオで再生されるのがいちばんよく似合った、V&Rのようなメーカーが大量に送り出し、あっというまに忘れられていった、「抜きどころのない」アダルトビデオだった。
ネットには無修正動画があふれ、しかしAV制作環境は厳しくなるいっぽうの時代に、30年前の暴走動画たちは「懐かしい」ではすまない、鋭角の問いを僕らに突きつけてくる。