警察小説にひと捻り、北欧ミステリ3本 「悪魔の星」ほか

レビュー

6
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書籍情報:版元ドットコム

警察小説にひと捻り 北欧ミステリ3本!

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 一匹狼で、飲んだくれで、女性にだらしがない。しかし猟奇殺人の捜査に入れば、恐るべき嗅覚で犯人を追い詰める刑事ヒーロー、それがノルウェーの作家ジョー・ネスボが生み出したハリー・ホーレ警部である。

『悪魔の星』はそのハリーがかつてない窮地に追い込まれるシリーズ第五作だ。今回ハリーが対峙するのは妖しい宝石が絡む殺人事件である。オスロ市内のアパートで女性の射殺死体が見つかる。死体からは左手の人差し指が切断され、さらに片方の瞼の下には星形のダイヤモンドが隠されていた。ハリーが得意とする異常犯罪が発生したわけだが、個人的に進めていた同僚殺しの捜査が上手くいかず、酒に溺れていた彼は危機に立たされてしまう。

 背反する二つの顔を持ったハリーこそが本書の要だ。優秀な捜査官としての顔が謎解きの妙味に満ち溢れた展開を生む一方、自堕落で破滅的な人間としての顔が破天荒な行動を招き、本書を一寸先も見えないスリラーに仕立てている。事実を丁寧に分析し真相に近づく伝統的な北欧警察小説の形式を持ちながら、善と悪の混沌を描くアメリカの犯罪小説の面影も感じさせるのが〈刑事ハリー・ホーレ〉シリーズの魅力なのだ。

 ネスボ作品のように、捜査小説の定型にひと捻りを加えた北欧ミステリが近年多く紹介されている。例えば『制裁』(ハヤカワ文庫)に始まるスウェーデンの作家コンビ、アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの〈グレーンス警部〉シリーズは、社会が抱える矛盾や問題を鋭く突く批評を盛り込みながら、読者にサプライズを仕掛ける術にも長けた作品だ。ミステリとしての驚きと、社会の辛い現実というダブルパンチがラストに待つ。

 また、『湿地』(創元推理文庫)を代表とするアーナルデュル・インドリダソンの〈エーレンデュル捜査官〉シリーズは殺人事件の捜査を描きながら、人口三十三万人程の小国アイスランドの特異な環境を写し取る。遠い北国の風土やアイデンティティに触れることができるのもまた、警察ミステリを読む醍醐味である。

新潮社 週刊新潮
2017年3月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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