「食べる力」と「考える力」生ききるための本
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
ピンピンコロリは万人の願いである。人に世話されるだけの存在になりたくない、自分らしく生きたいという希望を、誰もがもっているのだ。
塩田芳享『口腔医療革命 食べる力』は、医療ジャーナリストが「いま、現場にある危機」を書いた本。誤嚥のおそれがある(食べ物が気管に入ってしまうと、体力の弱った人の場合、肺炎から生命の危機に至る)という理由で「胃ろう」(腹に管を差す手術をして、栄養を胃に直接注入する)をすすめられる高齢患者は多いが、胃ろうにすると生きる意欲も生活の質も著しく減退する。食べ物を噛んで味わうことが人間の尊厳を守るのだ。食べる機能を失わないための知識が満載で、頼れる本だ。超高齢者にぴったり合う入れ歯を作れる人は少ないことなど、盲点になりやすい細かい知識も得られる。
人生の終わりを自分らしく、納得のいく形で過ごしたいと思うなら、「食べる力」と同様に「自分で考える力」も大切だろう。樋野興夫『がん哲学外来へようこそ』(新潮新書)は、治療を担当する医師とは別に、がん患者の話し相手をつとめてきた医師による、実際的であたたかい助言の書。書名に「がん」とあるが、がんではない人にとっても参考になる。投げやりにならず、他人の言いなりにもならずに「生ききる」ためには、治療方針や闘病生活にまつわる悩みを誰かに相談し、環境を改善していくことが必要だ。これもまた、前向きになるための一冊。