二足歩行に言葉らしきものの使用

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鳥を識る

『鳥を識る』

著者
細川 博昭 [著]
出版社
春秋社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784393421345
発売日
2016/12/22
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

二足歩行に言葉らしきものの使用

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 最近の子供向け科学図鑑では、ティラノサウルスなどの恐竜は、羽毛姿で描かれている。それだと多少は鳥類の祖先らしく見えるか。鳥が恐竜の子孫であることは、いまや仮説などではなく、ほとんど定説視されるにいたっている。今後、恐竜→鳥類の流れを一層補強はしても、それをくつがえすような化石資料の新発見は予想できないという。

 本書は大きく二部に分かれ、第I部「鳥の体と進化」では、この二、三十年ほどの間に急速に普及・定着した恐竜起源説のあらましが、現時点での最新知見をまじえて解説される。第II部「鳥の脳と行動、文化」では、そうした恐竜起源説を背景においた上で、現代の鳥たちがしばしば見せる驚くほど高度な「行動、文化」の秘密が、主として彼らの脳との関連で解明される。鳥の脳といえば英語でバードブレイン。まさに「バカ、とんま」の意味だが、なかなかどうして、表面にシワこそないものの、多層多極で人間の脳より高機能な面もあるらしい。

 鳥の鳥らしい点を挙げてみると、不思議に思うことがある。二足歩行。言葉らしきものの使用(さえずりは人間の言葉の習得と同様、若鳥のころの訓練が必須)。加えて人間の言葉の真似(オウムほか)。道具の使用。滑り台や大車輪などさまざまな遊び(カラス)。巣の周辺の色鮮やかな装飾。子育てへのオスの協力(一夫一婦制)。親指が他の指に向き合う対向性、等々。

 二足歩行といい、道具使用、遊びといい、これらはそのまま人間の固有性を強調する特徴ではないか。逆にいうと「なぜ鳥と人間は似ているのか」(サブタイトル)ということになる。貯食行動で知られるハイイロホシガラスなどは、一冬を越すのに十分な種子を、秋に五千ヶ所以上に分けて隠すそうで、彼らは空間記憶はもちろん、一冬という時間観念まで有しているらしい。

 著者は、こうした鳥と人間との奇妙な類同を、樹上生活という共通の経験から説明しようとする。水中生活のウミガメと海獣のヒレが似てくるように、系統的には遠い生物も同じ環境下に生活すれば形質が似てくる進化学上「収斂(しゅうれん)」と呼ばれる現象が、樹上という場で、鳥と人間にも起きつつあったのでは、と。

 もちろん鳥の特徴の中には、恐竜時代から持ち越されたものと、鳥化の過程で新たに獲得されたものとがあるわけだが、二足歩行や羽毛は前者である。抱卵時の保温に効果的だった羽毛は、一部の恐竜が樹上へと逃れた際、滑空・飛行に思わぬ効果を発揮した。今度はその飛行のために体の軽量化・小型化が起こる。鳥化の始まりである。なんにせよ、恐竜の末である鳥と霊長類の人間とのこれほどの類似には、大きな脈絡があるはずで、理屈抜きに興味をそそられる。

新潮社 新潮45
2017年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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