『ガーディアン』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
中学時代の闇の深い森に教師は無力なのか?
[レビュアー] 中江有里(女優・作家)
中学時代のある日、一学年先輩の女子から校舎裏に呼び出され、因縁をつけられ暴力をふるわれたことがある。それを知った同級生たちは、わたしと距離を取るようになった。暴力よりも周囲の態度が一変したことがショックだった。幸い短期間で問題は解決したが、本書を読んであの衝撃を思い出した。
教師の秋葉悟郎は赴任したばかりの石原中学で三年生を受け持ち、演劇部の指導をしている。特に問題がないように見える学校だが、生徒の些細な変化を感じた秋葉は「ガーディアン」という名を耳にし、調べ始める。
一部生徒によって作られた自警団「ガーディアン」は、ターゲットの生徒の机に折り鶴を置き、それを合図に他の生徒は一斉にターゲットを無視し、そこにいない者として扱う。行為だけを見ればいじめと変わらない。しかしターゲットにされるのは、いじめの加害者、授業を妨害した者、後輩への暴力など問題行動を起こした生徒だ。教師が手を焼く存在を「ガーディアン」は学校から排除し、安寧をもたらす。やがて生徒たちは「ガーディアン」を頼り、命令通りに振る舞うようになる。「ガーディアン」は自らを守るために教師にも容赦なく制裁を加える。秋葉は生徒たちに無視され、心ない噂に翻弄されボロボロになりながらも「ガーディアン」を追い続けた。
視点となる教師、保護者、生徒計一三人のそれぞれが抱える事情、問題が自然と浮き彫りになる書き分けは見事だ。特に他校の生徒に恐喝されている女生徒の不安と孤独が印象深い。そんな彼女も「ガーディアン」のターゲットになり、ますます孤独を深めていく。
「先生は無力だ」
ようやくたどり着いた「ガーディアン」からの言葉に秋葉は言い返せない。教師の目が行き届かない現実に対応して「ガーディアン」は生まれたのだ。教師とは何なのか、読みながら秋葉とともに考えた。
もう子どもじゃないが、大人にもなりきれない中学時代は、闇の深い森の中にいるようだ。どこが出口かもわからず何とかくぐり抜けた後に森を振り返る。成績や言動、髪型や服装のように、見えるものではなく、心を見てくれる誰かを求めた。疑心暗鬼になって親や大人を遠ざけた最中、感じ取ったかすかな光。暗黒の中だから、光のありがたさを知った。
教師は万能ではない。しかし弱い者に寄り添い、向き合い続けることは、無力では到底できない。