伊賀大介は浅草キッドの『キッドのもと』をセルフ・ルポルタージュの傑作と称す

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キッドのもと

『キッドのもと』

著者
浅草キッド [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480433701
発売日
2016/08/08
価格
836円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

伊賀大介は浅草キッドの『キッドのもと』をセルフ・ルポルタージュの傑作と称す

[レビュアー] 伊賀大介

伊賀大介
伊賀大介

 人は誰しも、処女作というモノを、書き記したり撮ったりする権利を持っている。
 書かなければ、永遠に脳内で大傑作かもしれない。撮らなければ、最高の監督や、主演俳優であり続ける事が出来る。
 だが! それでもジッとしてられない、多くの若者たちは、その約束の地を抜け出して、自らを鼓舞し、守れない約束をし続け、他人に迷惑をかけまくって、何者かに成ろうと、もがき苦しむ。
 他人のもがきほど、滑稽かつイタく、嘲笑のオカズになるものはないが、いつの日か、笑われた事を笑い飛ばす覚悟がなければ、望んで恥など掻きに行けない。
 だからこそ、全ての青春譚は光り輝いている!!
 青春デンデケデケデケ、ボクの音楽武者修行、赤めだか、芸術と青春、69、岳物語、アオイホノオ、僕の週プロ青春記、さくらの唄、俺様の宝石さ、七帝柔道記、そして永遠のマスターピース、まんが道、と、枚挙にいとまが無さ過ぎる(この際、フィクション・ノンフィクションは関係無し! 勿論マンガもだ!)。
 そんな群雄割拠の青春譚王国に、勇ましく名乗りを上げた二人の男たち!!
 それが、漫才コンビ「浅草キッド」の、水道橋博士と玉袋筋太郎の御両人である。
 生い立ちから今現在まで、二本の線がどうやって形作られ、交差し、ブットい一本の道になっていったか? を、二人が自ら書き下ろした(勿論、語りじゃないよっ!)セルフ・ルポルタージュの傑作が『キッドのもと』である!!
 ってコレ2010年の本じゃん! と突っ込まれそうだが、一寸待て。つい先日、待ちに待ちまくった文庫版が上梓!!(しかも、安心安定のちくま文庫太陽マーク!)。
 新宿生まれの本狂いとしちゃ、今起たないといつ鎌倉なのか!! って心持ち。
 おそらく、若者たちが初見でグッと来るのは、涙ナシでは読めない「太田さん」話や、いつの時代なんだ!? と、ビビってたじろぐ「日当千円&疥癬」話など、やはり浅草フランス座修行時代のエピソードの数々だろうが、時が経ち読む側の環境も変われば、二人の家族&子育て話も沁みまくってくる。
 二人の、夢も恥も引っくるめて、全てをさらけ出しまくりの濃すぎな歴史に触れていると「黒歴史なんか、ありゃしねぇんだ!! 全てはALRIGHT!!((c)RC)」と、勇気が出まくってくる事請け合い! そして、文庫版あとがきがねぇのか! と思ったのも束の間、これまたブルーにこんがらがったエモい解説で見事に〆るのは、宮藤官九郎氏!(マジ必読)。
 読み手のコチラもそうであるように、生きてる限りどんどん更新されていく「もとのもと」。
 もし、いつの日か続編が出るとしても、「続・キッドのもと」ではなく、この文庫に増補改訂しまくって800頁くらいになった『キッドのもと』を読み続けたいと、心から願う。
 よし! 未だ二人が仰ぎ見続ける太陽、ビートたけしの「浅草キッド」もいいが、「嘲笑」聴きながら帰るかっ!!

太田出版 ケトル
VOL.33 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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