中条省平は『身から出た鯖 七番出汁』が読者を脱力させる中崎タツヤらしさ満載の作品と賞賛する

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

身から出た鯖 七番出汁

『身から出た鯖 七番出汁』

著者
中崎タツヤ [著]
出版社
少年画報社
ISBN
9784785958480
発売日
2016/08/22
価格
999円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

中条省平は『身から出た鯖 七番出汁』が読者を脱力させる中崎タツヤらしさ満載の作品と賞賛する

[レビュアー] 中条省平(学習院大学フランス語圏文化学科教授)

中条省平
中条省平

 中崎タツヤが大好きでした。
 しかし、昨年8月に「ビッグコミックスピリッツ」に連載されていた『じみへん』が突然、最終回を宣言して終わってしまいました。連載は26年に及び、通算1171回! 作者は還暦を迎えたので、断筆し、マンガ執筆の道具も破棄してしまうとのことでした。
 本気なんだな、となんだかじんわりと感動しました。
 中崎マンガに、要らない物を捨てる男というのがよく出てきたのですが、そうか、あれは作者の分身だったのか、と妙に納得したしだいです。
 その後、『じみへん 仕舞』という541ページの大冊が出ました。私はその年の手塚治虫文化賞で『じみへん』を短編賞に推薦し、幸いほかの選考委員からもかなり熱い賛同をいただいて、短編賞に選ぶことができました。
 しかし、手塚賞のスタッフが中崎さんに受賞を打診すると、辞退の返事がかえってきたのです。その話を聞いた私は、それも中崎タツヤらしいなと思って、残念な気持ちと同時に、さすがだという満足の気持ちも湧いてきました。
 しかし、賞のスタッフの必死の説得が功を奏してか、結局、中崎さんは手塚賞を受けてくれることになりました。
 そして、授賞式の当日、中崎タツヤはこう語りました。
「あまりにも申し訳ないんで、辞退しようと思っていたんですよね。で、『賞金あります?』て聞いたら、担当の方が『ありますよ』って言うんで、ちょっとネットでいくらかなって一応調べて……。これはもう、ありがたくいただくしかないなと思って、いただくことにしました」
「あまりにも申し訳ない」というのは、自分のマンガのようなしょーもないものが手塚賞などという名誉を受けては申し訳ない、という意味でしょう。じつに謙虚です。
 しかし、賞金100万円でころっと自分の作家としての矜持を捨ててしまうところもいかにも中崎マンガみたいで、人間くさくて、素晴らしいと思いました。
 そんなわけで、中崎マンガはもう一生読めないと覚悟を決めていたのですが、なんと! 新刊が出たのです。2005年から2015年にかけて「ヤングキング」に載ったマンガを集めた『身から出た鯖 七番出汁』です。
 帯には「たのむよ手塚賞!!!!!」との文句が躍っていますが、これは、『じみへん』なんかに賞をあげちゃったけど、今後はしっかりしてくれよ、手塚賞! という作者からのメッセージなのでしょう。
 相変わらず、じつに下らない話を、一見投げやりな描線で描いて、哲学的ともいうべき深さ、何ごとにも動じない悟りの境地を感じさせながら、それらすべてをチャラにする身も蓋もないばかばかしさで読む者を脱力させてくれます。
 なかでは、先にも触れた、物を捨てずにはいられない男の話が面白かったです。物をすべて必需品と嗜好品に分け、後者は捨ててしまうのですが、便所掃除のときにゴム手袋は「素手でも洗えるんじゃね?」と思うそうです。それを聞いた友達が、「ゴム手袋、嗜好品かー」というオチです。じゃんじゃん。

太田出版 ケトル
VOL.33 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

  • このエントリーをはてなブックマークに追加